少女が森のなかで幼い頃の母に出会い、記憶、友情、家族に向き合う感動作『秘密の森の、その向こう』が9月23日(金・祝)に公開される。監督は、フランスのアートハウス映画界を牽引するひとりである、セリーヌ・シアマ氏。2007年の『水の中のつぼみ』でセザール新人監督作品賞を受賞して以来、『トムボーイ』(2011)、『ガールフッド』(2014)や『燃ゆる女の肖像』(2019)を通して、家父長制や社会的マイノリティへの抑圧を風刺してきた。

今回、セリーヌ・シアマ監督にインタビューする機会を得た。“タイムトラベル・フェミニズム映画”とも言える本作に込めたメッセージ、そして日本よりもジェンダー平等が進んでいるかに見えるフランス映画界に対する率直な思いを明かしてくれた。

セリーヌ・シアマ監督
『秘密の森の、その向こう』あらすじ
8歳のネリー(ジョセフィーヌ・サンス)は両親と共に、亡くなった祖母(マルゴ・アバスカル)の遺品を片付けるために森に佇む祖母の家を訪れる。すると、母(ニナ・ミュリス)が何も言わずに一人でどこかへ出て行ってしまう。残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女(ガブリエル・サンス)と出会う。その少女は、母の名前である「マリオン」と名乗ったーー。
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祖母や母も“ひとりの女性”

――ネリーはマリオンという名の少女が幼い頃の母だと気づきながらも、彼女を「ママン(フランス語でお母さんの意)」ではなく「マリオン」と名前で呼びますね。この描写から、私は自分の母親を“母”というジェンダーロールを通してしか見てこなかったのではないか、と気づきました。

『秘密の森の、その向こう』より

シアマ監督:母と娘は生活を共有するけれど、違う人間で“個々の名前”をもっているという意味を込めました。大人になってから祖母や母と築いた関係性が物語に活かされていると思います。つまり、大人同士の対等な立場から、祖母や母を“ひとりの女性”として知ったこと。子どもの頃よりも、大人になってから祖母や母と築いた関係性のほうが、愛、政治やフェミニズムに対する私の考えや行動に大きく影響していると思います。

――親子であっても“個”としての存在を見る、というのは頭で分かっていながらもなかなか難しいですよね。ネリーが、母親が悲しんでいるのは自分のせいだと思い込んでしまっている描写がありますが、それも、互いを個の存在として見られていないゆえだと感じました。

シアマ監督:子どもは親の悲しみに対して罪悪感をもってしまうものです。でも、その必要はないんだということも物語に込めたメッセージの一つです。親が抱えるさまざまなものに対して、子どもに責任を感じてほしくない。子どもはその親のもとに生まれて来ただけで、親の人生まで背負うことはないんです。私がこのことに気づいたのは、ずいぶんと大人になってからのことでしたが。