2022.09.30

「フェミニズムやジェンダー論」と「アイドル」は相性が悪い? “葛藤”するアイドル論とは何か

アイドルを楽しみとして享受しつつも、しばしば外からも批判されるような業界に根強い慣習や価値観に対して「これでいいのか?」「どうすべきなのか」と悩んでもいる――。

香月孝史、上岡磨奈、中村香住編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社)は、フェミニズムとアイドルの関係、異性愛を前提にした表現の蔓延、同性ファンの扱い、演者の「素」を侵食してプライベートでの振る舞いにまで干渉するファンや運営の視線や規範意識、そもそも「推す」とは何かといったさまざまな論点について、無邪気な賛美でもステレオタイプな批判でもないかたちで、ファン当事者の視点から語り、好評を得ている論集だ。

アイドルファンとその外部との乖離や、ファンだからこそ抱く業界の慣例への疑問や違和について、編著者のひとりである香月氏に訊いた。

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「アイドルとフェミニズムやジェンダー論の相性って悪くないですか?」へのモヤモヤ

――アイドル論の歴史は長いですが、「葛藤」を扱ったものは商業媒体ではかつてはそこまで一般的ではなかった気がします。しかし今はそれがしっくりくる空気があります。

香月 たとえば2010年代前半には「AKB論壇」と呼ばれるような議論の盛り上がりがありました。それらの議論の中ではAKB48を中心としたアイドルへの熱狂がポジティブに論じられることはあったものの、アイドル当人にかかる理不尽な負荷や抑圧性など、アイドルシーンが抱えてきた問題性に関してはまだいささか無邪気だった印象があります。メディアに載った著名な人たちの議論では「恋愛禁止」が複数のロジックで正当化されることもありました。一方で、ファンダムの外からは、率直な批判がたびたび投げかけられてきましたが、アイドルファン内の議論とはまだ、うまくかみ合っていなかったようにも思います。

とはいえもちろん、かつてもファンダム全体が無頓着だったわけではありません。2010年代以降に限っても、「ファンだからこそ」ジャンルの性質として抱えている難点を発信し、具体的かつ正確に批判していることもありましたし、アイドルを巡る諸問題が問い直されることも多くなってきているように感じます。

たとえば「恋愛禁止」について言えば、演者のプライベート領域を規制するような風潮がいつしか当たり前のことのように定着し、恋愛をスキャンダルとして扱ういびつなコードが適用されていること自体の問題性に加え、そのコードが実質的には異性間の交際のみに適用されることで、異性愛を「恋愛」のスタンダードとするような価値観が忍ばされていることなどに関しても指摘されるようになっています。

しかし、そうした葛藤や議論は主にSNS上で展開されていることもあり、界隈の外には届きにくかったと思います。

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