いとやんごとなきイギリス貴族の生活! 帝国のリーダーから没落まで…時代に翻弄されたその本当の姿とは?

エリザベス1世からウィンストン・チャーチルまで、政界・官界・軍界にわたり大きな影響力を持ち、「大英帝国」を支えてきた貴族たち。その暮らしや実情はどんなものだったのか? 
国民から愛されつつも不慮の死を遂げたマウントバッテンなる人物がいる。​
“イギリス貴族”を代表する彼の人生から、そのリアルな姿を垣間見てみよう。

※本記事は、小林章夫『イギリス貴族』から、一部編集のうえ抜粋しています。

爆弾による名門貴族の暗殺

今から十数年前の夏、イギリスへ着いた直後に起きたある事件のことは、まだ記憶の隅にありありと残っている。

当時激しいゲリラ活動を展開していたカトリック系過激派組織のアイルランド共和国軍、略称IRAが、アイルランド沖を愛艇で航行中のマウントバッテン卿なる人物を爆弾によって暗殺し、連日マスコミが大々的な報道を展開するとともに、多くのイギリス国民が深い悲しみにうち沈んでいたのである。

僕の一家が借りていたフラット(アパート)の隣りは老人ホームで(といっても普通の家を改造しただけの小規模なもの)、天気の良い日には歩行器にすがって、それこそ一〇センチずつぐらいの歩幅でゆっくり進む老人たちの姿が見られたものだが、その中の一人のおじいさんが僕にむかって、涙まじりにマウントバッテン卿の不慮の死を悼んだことがある。

まだ引っ越してきたばかりの東洋人にも思いのたけを吐露したくなるほどの深い悲しみだったのだろう。

マウントバッテン卿の葬式 1979年9月5日、ロンドン Photo by Getty Images

いとやんごとなきマウントバッテン

さて悲痛な言葉を聞かされたほうの僕だが、実はこのときまでマウントバッテンなる人物がいかなるものか知らなかった。

卿と呼ばれるからには貴族であろう。マウントバッテンという名前からして、高貴な血筋を予想させる。スミスさんや、リチャーズさんではないのである。日本流に言えば、武者小路さんや姉小路さんというところだ。

しかもテレビを見ていると、エリザベス女王が深い悲しみにうちひしがれているというから、王室ゆかりのいとやんごとなき方に違いあるまい。

そこで無知をはずかしがりもせず、大家さんにマウントバッテン卿とはいかなる人物なのかと教えを乞うた。きかれた大家さん、目に若干の哀れみの表情を浮かべながらも親切に教えて下さる。

マウントバッテン卿、ファースト・ネームはルイスで、ヴィクトリア女王の玄孫、現エリザベス女王の夫君エディンバラ公の叔父上にあたる方だという(ちなみにエディンバラ公の名はフィリップ・マウントバッテンである)。だとすれば女王エリザベスが悲しむのも無理はない。

しかもこのマウントバッテン卿、第二次大戦時のイギリスの国民的英雄として、かのサー・ウィンストン・チャーチルと並び称せられる人物だというではないか。いやあ、知らなかった。はずかしい。

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