景気への影響は必至
金融引き締めが続くとなれば、経済に「痛み(pain)」が走ること必至だ。
パウエル氏が足元の利上げサイクルで「痛み」に初めて言及したのは5月17日のWSJ主催のイベントで、その後の6月FOMCで75bpの利上げに踏み切った。
7月FOMCでFF金利誘導目標が中立金利の2.5%に到達した折には、利上げ中断を示唆しハト派に転じたかのようにみえたが、8月26日のジャクソン・ホール講演で再び”痛み“に言及。インフレ抑制を狙った金融引き締めにより、成長や労働市場に「いく分の痛み」をもたらすと述べ、金融市場を揺るがした。
さらに1970年代の利上げ期での拙速な緩和策転換が物価高止まりにつながったと、タカ派姿勢を鮮明にした。9月FOMCでの記者会見はというと、パウエル氏の口から「痛み」に関連する言葉が7回飛び出し、7月FOMCの2回、6月FOMCの1回を上回った。
ただしパウエル氏は、9月FOMC後にどれほどの「痛み」を米国市民が耐えなければならないのかについて、説明を控えた。むしろ物価高こそ低所得者層を中心に「痛み」を与えるとし、インフレ抑制の努力を先送りがさらなる苦痛を及ぼすと警告。一方、賃金と物価が減速すれば引き締めから転換する見通しと述べた上で、その暁には過去に経験した「約10年に及ぶ長期的な景気拡大を迎える」とバラ色の未来を示唆した。
逆に言えば、それまでは「痛み」に耐える時期となる。経済見通しによれば、今回追加された2025年を除き2022~24年まで全て下方修正され、2022年の成長率は0.2%増と辛うじてプラス成長を確保する程度に。とはいえ、2023年は1.2%増と潜在成長率の2%を下回るとはいえ、Fedがソフトランディングを予想していることが示された。

米株市場は、Fedのソフトランディング見通しに異議を唱えるように急落し続けている。ダウは9月23日、弱気相場入りに迫った。S&P500とナスダックは既に弱気相場入りし、特にナスダックは21年11月の高値から30%超も急落。グロース株を中心としたポートフォリオで2021年まで時代の寵児だったキャシー・ウッド氏は、2つの上場投資信託(ETF)のポートフォリオ・マネージャーの座を明け渡すことになった。
米債市場でも、米2年債が少なくとも1976年以降で最長の下落局面に迎えるように債券バブルの崩壊が指摘され、金融市場は惨澹たる状況である。