「失業」の動向をどう読むか
Fedが「痛み」を把握する上で、注目する指標は何か。パウエル氏は失業率以外に、求人数と失業者数の比率を挙げた。足元、求人数は失業者数の約2倍と過去最高水準で、Fedの金融引き締めを正当化しているかのようだ。

求人数が過去最高水準であるためだが、9月公表の地区連銀報告(ベージュブック)で景気後退懸念の報告が12地区連銀中、半数の6行で確認されたわりに、なぜこれだけ多いのか。もちろん、ベビーブーマー世代の引退やリモートワーク希望者の増加などにより、必要な人材を採用できない事情もあるのだろう。求人数が雇用統計の1カ月遅れで公表されることも、一因に違いない。そして、もうひとつ見捨てておけないのが“幽霊求人広告”の増加だ。
米貸出機関のクラリファイ・キャピタルが8月31日から9月1日に実施した調査によれば、人事担当者の68%が求人広告を1カ月以上にわたり掲載し、10人に1人が半年以上に及んでいた。さらに、5人に1人は「2023年末まで採用を予定しない」と回答。単純に当てはめれば、7月の求人数は1,124万人だったが、約2割が水増しされたとすれば、実際には約900万人と考えられる。
ちなみに、なぜ幽霊求人広告が増えたかというと、1.取引先などに業績が拡大中との示唆を与えるため、2.従業員に採用活動中と示しモチベーションを維持させるため、3.経済の不確実性を受け採用に踏み切れない―などが挙げられた。求人数を約2割差し引いても、失業者数の1.6倍相当となり引き続き高い水準に変わりはない。
ただし過去を振り返ると、米経済は減速局面で急速に労働市場が冷え込んできた。5月3日に公開した「試される米国FRB…積極的な「金融引き締め」は“景気後退への扉”を開くのか」で取り上げたサーム・ルールをみると、過去3カ月平均の失業率と過去12カ月間での最低値の差は8月に0.03%ポイントとプラスに転じた。
1980年以降、6回の景気後退局面でプラスに転じてから景気後退入りシグナルが点灯する0.5%ポイントに達するまで平均5.7カ月に過ぎない。8月に失業率は7カ月ぶりに上昇したが、今後の悪化を示す転換点となるリスクをはらむ。
景気後退リスクと言えば、NY地区連銀が米10年債と3カ月物Tビルなどで算出する1年後の景気後退の確率も、8月に25.1%と利上げ開始した3月時点の5.5%から急伸した。1980年以降の景気後退局面をみると、確率25%超えは1年数カ月後のリセッション入りを的中させてきただけに、景気後退のサインとして意識される。