景気後退⇒政治的圧力⇒?
景気後退リスクが高まれば、Fedは利下げに転じるのだろうか。少なくとも2023年のドットチャートを受け、2023年末までの利下げ転換の確率は9月23日時点で31.7%程度だ。利下げがあるとするなら、2024年が有力視される。
2024年は米大統領選を控えるだけに、政治的にも利下げ圧力が掛かってもおかしくない。過去の米大統領選を振り返ると、利上げと利下げの影響はほぼ関係なく、景気後退の最中あるいは米大統領選イヤーの直前と直後に景気後退入りしていた年に、現職あるいは与党候補が敗北を喫していた。

パウエル氏が政治の風向きに敏感であることは、21年11月のFRB議長再任を含めバイデン大統領との2回にわたる面談後にタカ派姿勢を強めたことで明らかだ。9月FOMC後のパウエル氏の記者会見でも、政治への配慮がにじみ出たことは特筆に値する。
パウエル氏は、今回の利上げサイクル期で初めて「海外の成長鈍化が輸出を抑制し、米企業の固定投資を圧迫している」と発言したのである。奇しくも米貿易収支で輸出が6~7月に過去最大水準を記録したにもかかわらず、敢えて輸出の鈍化について言及した格好だ。
輸出の弱まりについて発言した翌9月22日、興味深いことに政府・日銀が24年ぶりのドル売り・円買い介入を実施した。米財務省が協調介入ではないと説明しつつ、「足元で高まる円のボラティリティーを下げることを目的とした行動」と一定の理解を示したように、深読みすればFedが米財務省と足並みをそろえ、日本の当局による介入を容認したようにみえる。
岸田首相がFOMC明けの9月22日にニューヨーク証券取引所(NYSE)で講演を行ない、質疑応答で「過度な変動に対しては断固として必要な対応を取りたい」と表明したタイミングも、偶然ではないだろう。そして米当局の対応は、バイデン政権の意思と無関係であるはずがない。
パウエル氏は、70年代末にスタグフレーションを終息させたFRB議長、ポール・ボルカー氏のごとく、積極的な利上げという大鉈でインフレを刈り取ろうとしていることは間違いない。そのボルカー氏は、1985年にレーガン大統領(当時)に反旗を翻し利上げを続けようとして、再任されなかった。
パウエル氏が真の意味で第2のボルカー氏となれるのかは、政治的な風に流されるか否かで判断されるのではないか。