
6月30日、中国共産党創建90周年記念日を翌日に控えたこの日の午後3時に、総工費2200億元(1元=12・5円)を超える中国建国以来最大の国家プロジェクトが、上海虹橋駅でお披露目となる。「中国版新幹線」こと北京-上海高速鉄道「和諧号」の開通である。
「和諧号」は、両都市間1318kmを、最高時速300km、最短4時間48分で結ぶ。「和諧」は、「調和の取れた」という意味で、「和諧社会」は胡錦濤政権のキャッチフレーズである。このため中国の高速鉄道は、北京-上海間に限らず、すべての車両が「和諧号」と名付けられている。
北京-上海間の「和諧号」は、1994年に時の江沢民主席がゴーサインを出して以来、実に17年。幾多の艱難辛苦&紆余曲折を経て、最後は鉄道大臣のクビまで飛ばして、ようやく党創建90周年に駆け込みセーフで、開通にこぎつけたのだった。
開通直前にとばされたミスター鉄道部長
「ミスター和諧号」と言われ、鉄道部長(鉄道相)の座に8年間も君臨していた劉志軍大臣は、いまから4ヵ月ほど前の2月8日、トレードマークの黒サングラス姿で安徽省阜陽駅に現れ、旧正月の視察を行った後、忽然と姿を消した。後に共産党当局は、「重大な違反により調査中」と短く発表しただけで、現在に至っている。
後任には、盛光祖・税関総署長が横滑りした。こちらは「ミスター無難」との異名を取る官僚で、北京-上海「和諧号」の最高速度は、新大臣の「鶴の一声」で、たちまち380kmから300kmへと減速されたのだった。
こうして日本の東京-大阪間の新幹線開通に遅れること47年、ついに中国も、本格的な高速鉄道時代を迎えたのである。
中国の高速鉄道計画は、2020年までに、首都・北京から8時間以内に、全国の主要都市に到達できることを目標にしている。そのため、いわゆる「四縦四横」と呼ばれる路線計画を立てている。「四縦」とは、北京-上海、北京-香港、北京-ハルビン・大連、上海-深圳の南北4ライン。「四横」とは、青島-太原、徐州-蘭州、南京-成都、杭州-長沙の東西4ラインだ。近未来には、全中国を網の目のように「和諧号」が駆け巡ることになる。
このところ中国メディアは連日、興奮気味に「新幹線開通」を報じている。例えば、北京の天安門広場から上海の外灘まで行くのに、これまでは飛行機を使って4時間50分、1022元かかっていたのが、今後は陸路で6時間33分、562元で行けるようになるとのことで、記者が'実演'をしていた。
また、「高姐」(高速鉄道レディ)なるものの採用が行われ、身長168㎝~170㎝で容姿端麗、英語に堪能な美女たちが接客にあたるという。こちらも、箸を咥えて必至にスマイル・トレーニングをしている様子や、美しい立ち振る舞いのために本を頭に載せて歩く訓練などが映し出された。
日本に新幹線が開通した1964年、私はまだ生まれていなかったので、当時の様子は分からない。だが想像するに、当時の日本人は、一様に興奮していたのではないか。特に日本には奥深い「鉄チャン文化」があるから、鉄道ファンたちが必死に「ひかり号」と「こだま号」の写真を取りまくったに違いない。