2022.09.29
# 生き方 # 人間関係 # ライフ

鴻上尚史「あなたは“自分の幸せ”について考えたことがあるか」

世間ってなんだ(2)
多くの書籍を通じて、日本社会の特徴ともいえる「空気」と「世間」について、さまざまな角度から考えてきた鴻上さん。
30年にわたる連載をもとに刊行した『世間ってなんだ』では、ずっと中途半端に壊れ続ける世間が私たちの生活、心に何をもたらしてきたのか、世間が息苦しいと感じたときに、そこから抜け出す方法を語っている。

「働きすぎない」イギリス人と日本人の生産性は同じ?

とうとう始まったイギリス版『トランス』公演の初日、2時に舞台に集合と前日に言っていたのに、2時になっても役者は誰も来ません。

初日の時間がない時にどうしたんだと楽屋に走ってみれば、俳優全員でゆっくりとお茶を飲んでいました。

鴻上尚史の『Trance』BLOGより

ア然として、しばらく立ち尽くしていると、役者の一人が、「ショウジ、どうしたの? お茶、飲みたいの?」と優しく聞いてくれました。

僕は、しょうがないなあと思いながら、にっこりと微笑みました。内心、「これじゃあ、なかなかストレス、たまらないだろうなあ」と感心(?)していました。

ロンドンで、日本大使館の偉い人が、自宅のパーティーに役者とスタッフを招待してくれました。

そこで、大使館の人と話し込みました。

女性だったのですが、一度、海外勤務になると2年から3年、その地にいるのだそうです。

んで、彼女はスペインから勤務が始まったそうです。シエスタ(長~い昼休みですね)のあるスペインです。その後、彼女はフランスにも行って、今はイギリス勤務なわけです。

で、僕は、ずっと思っている素朴な疑問を聞きました。

そういうノンキな国で、リラックスすることというか、働き過ぎないことを経験して、日本に戻ってくると、日本の生活が嫌になりませんか?

彼女は、しみじみとため息をつきました。「ええ、若いころは特にダメでしたね。日本の朝も夜もない勤務時間と、こっちの夕方6時にはちゃんと仕事が終わっている生活との切り替えがまったくできませんでした」

そして、「でもね、私はすごく不思議なんですけど、イギリスの会社員なんて、本当に5時か6時になると、パブ行って飲んでるんですよ。残業なんてほとんどしないわけです。なのに、今、イギリスは非常な好景気で、バブルと言ってもよくて、ロンドンの金融取扱高が世界一でしょう。じゃあ、早朝から深夜まで働いている日本人はなんなのっていう気がしますよね。終電まで働く国民と、6時にはパブでうまいビールを飲む国民が、結果的にそんなに変わらないどころか、パプ派が今は勝ってるってのが分からないんですよ

彼女は、ロンドンの曇り空を見つめながら、またため息をつきました。じつは、これとまったく同じ話を、僕は借りているフラットの大家さんとしていました。

最初に確認しておきますが、イギリスでも、早朝から深夜まで働いているモーレツ社員はいます。特に、株式関係だと、ロンドンでは早朝にニューヨークの終わり、深夜に東京の開始に立ち会えますから、働きに働いています。

でも、そういう人は、びっくりするぐらいのお金を貰っています。

2007年、ロンドンでは金融関係で、2億5000万円以上のボーナスを貰った人が、3000人いたそうです。ボーナスでっせ。月給を貰う以外のボーナスが、2億5000万円ですからね。もう笑うしかないってことね。

で、そんなに働きに働く人以外は、普通に朝9時に出社して、6時にはもう会社を出ているわけです。なのに、好景気。

んで、「どうしてでしょうね?」と話していると、大家さんの知り合いでフランスで育った日本人が、「日本に行って思ったけど、日本人は余計な部分にエネルギーを使い過ぎているんじゃないですか。結果、大切な部分に使うエネルギーはイギリス人と同じだと思いますよ」と、素朴に語ったそうです。

つまりは、会社にものすごく長くいるけど、本当に大切なことをしている時間は、イギリス人の定時勤務と同じぐらい、ってことですね。

意味なくダラダラいたり、根回しに疲れたり、やる前にあれこれと思い悩んだりしているってこと、なんですかねえ。

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