「うちの子、勉強はしないのに、ゲームには夢中でずっと遊んでいるんです」という悩みを抱える保護者は多いのではないでしょうか。子どもたちがゲームにハマってしまう理由。そこには、制作者があらかじめゲームの中に巧妙にデザインしているいくつもの仕掛けがあると、数々のゲームを手掛けてきたゲームデザイナーである永尾純一さんは語ります。

永尾さんは、大手ゲーム会社「カプコン」を経て独立。現在はゲーム制作に留まらず、ゲームの面白さの仕組みを他分野でも活用するコンテンツ制作を行っています。そんな永尾さんに、ゲームデザイナーの視点から、子どもたちがゲームに夢中になる仕組みを活用して、学習に意欲を持たせる方法について聞いてみました。

永尾純一(ながおじゅんいち)
フリーランスのゲーム+αデザイナー。1981年、京都府生まれ。2002年から大手ゲーム会社「カプコン」でプランナー、ディレクターとしてゲーム制作に携わる。独立後、ゲーム制作を続ける傍ら、ゲーム制作やアイデア創出のノウハウを共有するワークショップや講義を行ったり、ゲームの面白さの仕組みを他分野でも活用するコンテンツ制作を行っている。肩書の「+α」にはゲームの楽しさ以外に、遊びを通して「+α」の経験や知識、興味のキッカケを提供していきたいという意味が込められている。「教育×ゲーム」をテーマに世界中の漢字を異なった視点で捉えて遊ぶ体験型ドリル『漢字ハンターズドリル』を制作。
 

子どもがゲームにハマる理由

どうして子どもたちは、勉強よりもゲームに引き付けられてしまうのでしょうか。もちろんゲームそれ自体が楽しい遊びであるからなのですが、それだけでは、子どもたちをゲームから引き離すことがこれほど困難なことへの説明がつかないと思います。じつは、その「楽しさ」の裏には、制作者が意図的に作り上げているいくつもの仕掛けが存在するのです。それを知っておくと、「いいかげんゲームはやめて勉強しなさい!」という言葉が、子どもにこんなにも響かない理由がわかると思います。

たとえば達成感。人間、達成感がないと何事も続かないというのは、大人ならこれまでの経験から誰もが頷けるかと思います。では勉強で手応えを感じられる瞬間は、というと、たとえば「テストでいい点を取った時」が思い浮かびます。ただ、その達成感を得るためにはある程度の期間、努力を継続し続ける必要があります。

一方、短いスパンで多様な達成感を得ることができるようにデザインされているのがゲームです。バトルで敵に勝つ、レベルが上がる、レアなアイテムを入手するなどなど、とにかく褒めてやる気を引き出し、次のステップに向かわせるということを、かなり意図的に設計して制作するのが、ゲームデザイナーの仕事なのです。

ゲームで得られるのは達成感だけではありません。たとえば「Aボタンで剣を振る」という操作ひとつをとっても、ボタンを押してから実際にキャラクターが剣を振るまでのタイムラグや動き、敵にヒットした感の演出によって「操作の反応が気持ちいい」という根源的な快感をプレイヤーに感じさせることができます。また「リスクのあるプレイに対して大きなリターンを与える」ことで、ある意味ギャンブルと同様の興奮を与えることも可能です。

ゲームは、こういった「プレイヤーの反応」を常に予測し、モチベーションを上げ、快感と挫折を適切に提供することで「楽しさ」を生み出し、プレイヤーをハマらせ、ゲームクリアに導いていくように制作されているわけです。

ハマるようにゲームクリエイターたちが全力を注いでいる Photo by iStock

そう考えると、「勉強」と「ゲーム」を単純に並べた時、その敷居の低さとおもてなしの細やかさといった点でゲームに軍配が上がり、子どもたちがどうしてもゲームに強く惹かれて夢中になってしまうのもやむなし、なわけです。

ゲームのマップ一つ、宝箱の配置や敵の強さにいたるまで、ゲームデザイナーはその存在を悟られぬように気配を消しながら、楽しさを最大化するために様々な仕掛けを施してプレイヤーを待ち構えているのです。