2001年9月11日に起きた同時多発テロをきっかけとし、世界各地の聖地を撮り続けている写真家の稲田美織さん。1991年からNYに暮らしていたが、現在は日本に拠点をうつしている。
聖地を撮るということは、当然そこに足を運ばなければならない。時には雪山を登り、川を下り、世界各地の聖地を回りながら、自然の力を感じてきたという。人間が浅はかな気持ちで壊してはならない大切なもの。地球の素晴らしさを見つめなおすためにも、稲田さんが出会った様々な「聖地」を写真と共に紹介していく。
連載第1回は日本の聖地、伊勢神宮に出会ったときのことをお届けする、
2001年9月11日のこと
私は1991年からNYに移り住み、当時、現代アートの聖地で制作に集中していた。当時は治安が悪く、常にポケットに20ドル札を入れて、身の危険がある時にはそれを渡して逃げろと言われていた。それでも、NYの街はエネルギーに溢れていて、魅力的であった。100以上の人種や言語がそこには存在し、まるで小さな地球の縮図であった。いつしか、世界中の人々と友人になり、お互いに理解してゆけば、いつか世界は平和になると信じていた。あの9.11までは……。
2001年9月11日朝。目を疑うような光景をアパートの窓から目撃した。
ツインタワーは多くの命を飲み込んだまま崩落し、その後、コスモポリタンであるNYがまるで宗教戦争のようになり、私は深い淵に落ちていった。

そんな沈んだ気持ちから立ち直れず、カメラを持てずにいたある日、本屋でネィティブアメリカンの写真集に出会った。その瞬間、何かを直感し、1年ぶりにカメラを持ってサウスウエストに旅立つことを決めた。そこには自然の一部として生きる人々、そして祈りの聖地があった。人間の力を大きく超える世界がそこにはあった。そこから、私は、世界中の聖地を撮影し、銀座で展覧会を開いた。その時にいらした方の縁で、私は伊勢神宮に導かれた。