イギリスの“執事”がアメリカに流出!? 有能な使用人? 影の支配者? そもそも執事とは何者か?【執事の正体】 

政界・官界・軍界すべてに多大な影響をもつ大英帝国の貴族たち。そんな彼らの生活も、全てを機略的に取り仕切る「執事」なしには成り立たない。彼らは一体どんな存在なのか? 

本記事は、小林章夫『イギリス貴族』から、一部編集のうえ抜粋しています。

領主以上の権威?

貴族の家の使用人の中で、もっとも重要な存在は執事である。英語で言えば「バトラー」。この言葉、もともとは「ボトル」に由来するらしく、酒類や食器などを管理する役目だったことからこの名称がついた。

ただしもちろん執事とは数多いる使用人のトップに位置するもので(ある侯爵家では御主人が顔を合わせるのは執事だけで、馬でお出かけのときには、ほかの使用人に見えないよう発煙筒がたかれたそうだ)、その権威は領主様一家に次ぐ、いやひょっとすると場合によってはそれよりも力が上であったりする。

イギリスの上流階級を描いた映画や小説には三〇年、四〇年にわたって執事を務めているなどという、いわばその家の生き字引きのような人物が登場することがあるが、こういう執事に対しては領主様も一目おいていて、家風に合わない決定などをおこなおうものなら、ぴしゃりとたしなめられたりする。

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当主よりも教養があると解雇される

P・G・ウッドハウスと言えば、イギリスのユーモア作家として評価の高い人物で、その作品は上流階級の日常生活をいささかの皮肉を交えた軽妙な筆致で描いたものとして人気があるが(日本でももっと読まれていいのではないか)、その中にたびたび登場するジーヴズは、機略に富んだまことに模範的執事として御主人様の窮地をたびたび救う人物である。

こうした執事の出自(シャレです)は概して良いのであって、もちろんその職掌柄、学をひけらかすようなことはないが、言葉の端々に教養が見えかくれする。

なにかで読んだ話だが、ある貴族の家に招かれた人物、そこの家の御当主よりも執事のほうが押し出しが立派で、しかもしゃべる英語が生粋のキングズ・イングリッシュだったためびっくりしたという(逆に成り上りの貴族が執事を雇ったところ、自分よりきれいな英語をしゃべるために初めての客がみな執事を主人と間違えてしまうので、怒って解雇した例もあるそうだ)。