21世紀の戦争にとってますます重要になるデジタル・テクノロジー

目に見えない戦争(1)
2022年2月末、ロシアによるウクライナ侵攻が開始された。侵攻前のアメリカによる機密情報の公開、ハッカー集団アノニマスのロシアへのサイバー攻撃など、科学技術がいかに現代の戦争のゆくえを左右するか、わたしたちはその動向を驚きとともに見つめている。デジタル・テクノロジーは、政治的・軍事的にどのように利用されているのか? 全5回に分け、イヴォンヌ・ホフシュテッター『目に見えない戦争――デジタル化に脅かされる世界の安全と安定』(渡辺玲訳)から抜粋して紹介する。

デジタル化を制した者が優位に立つ

デジタル化は私たちの私的生活や職業における日常をコントロールしているだけではない。デジタル化を通じて、戦争のやり方も一つ上の段階に進化している。

日に日に賢くなっていく機械も、政治や軍事力の行使にとってはソフトな戦争のための使いやすい道具となる。それらは、アメリカのようなすでに確立された権力を含む国家やその国民に圧力をかけながらも、報復や実際の戦争にエスカレートするリスクを抑えている。

しかし、実際の戦争に発展する可能性が完全にないわけではない。なぜなら、デジタル空間の諜報、妨害、破壊活動といった、いわゆる非対称的な、あるいはハイブリッドな脅威は、安易に手が届く戦争の代替手段になっているからだ。

このような状況において、認知機能をもつ機械のための人工知能といった普遍的なテクノロジーが、二一世紀の戦争にとってますます重要になってきている。

いくつかの国家は、そのこと、つまりデジタル・テクノロジーは経済的利益だけでなく政治的・軍事的な優越性をもたらすということを、はっきりと心得ている。デジタル化の地政学的な一手を制した者がビッグパワーの力比べで優位に立つ、ということだ。

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21世紀の戦争の手段の把握しづらさ

デジタル技術において、これまで疑うことなくトップの座にあったアメリカ合衆国は、かつての玉座が溶けていくのを横目に、望もうと望むまいと、その影響力を猛烈な成り上がり(特に中国)に譲り渡すのだ。

アメリカは後退し、複数の勢力がしのぎを削って地理的に広がっていく。その熾烈なさまは、情報窃盗や妨害・破壊工作に限らない、新たな恐るべき軍拡競争の訪れを告げている。

何もかもがつながり合うすべてのモノのインターネット〔Internet of Everything(IoE)〕を通じて、デジタルな軍拡競争は物質世界に食い込んでいく。

その物質世界はといえば、スマートフォンやスマートハウス、スマートカーよりもっとスマートに賢くなっている。戦闘ロボット、ドローンの大群、スマート・インプラント〔体内に埋入する医療機器で、治療だけでなく診断機能をともなうもの〕やネットワークでつながり合った核兵器、時速三万三〇〇〇キロメートルの超音速で数分以内に目標に到達する飛翔体から発射されるスマート弾丸。

すべてのモノのインターネットの拡大によって二一世紀の戦争の手段が把握しづらいものになっていることこそ、私が本書にこのテーマを選んだ理由でもある。

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