2022.10.02
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「遊ぶ」だけから「撮る」時代へ…拡大する「ゲーム写真」の奥深い世界

写真に写った現代の肖像(6)

盛り上がりつつある「VP」の世界

大学や専門学校で写真史や写真文化論を教える筆者は、ここ数年、学生から奇妙な写真を見せられることが増えた。それらは一見すると風景や人物の鮮やかな一瞬を捉えているが、どうもCGのようなのだ。そこで尋ねてみるとゲームのフォトモードを使って撮影したもの、つまりスクリーンショットだという。

写真とは「現実にある対象を写した画像」のことを指すもので、もちろんスクリーンショットはそれに該当しない。だが、デジタルの仮想世界がもうひとつの現実となっている今日では、写真の定義自体が変化してきているようだ。こうしたゲーム内のスクリーンショットは「インゲーム・フォトグラフィ」あるいは「バーチャル・フォトグラフィ(以下、VP)」などと呼ばれて、様々な分野で注目され始めている。

その代表的な例が、競技としてゲームを楽しむeスポーツの世界である。日本での認知度はまだ低いが、2021年度のeスポーツの世界市場はおよそ11億ドル、オーディエンスは4億6000万人以上で、今後ますます成長も期待され、質の高いVPへのニーズも必然的に高まってきた。

2020年には、写真や動画などのデジタルコンテンツやその素材を提供する、世界最大手の企業ゲッティイメージズが「グランツーリスモ・チャンピオンシップ」の公式フォトエージェンシーとして、ゲーム開発会者社のポリフォニー・デジタルと契約したことを発表した。カーレースゲーム「グランツーリスモ」内で行われるこの競技は、F1や世界ラリー選手権などを主宰するFIA(国際自動車連盟)のeスポーツ部門として公式に認定されている。

7月にオーストラリアで開催された地区予選[Photo by gettyimages]
 

興味深いのは、ゲッティイメージズが、そのスクリーンショットを撮影するためにリアルなモータスポーツを撮ってきたフォトグラファーを投入したことだった。

日本法人ゲッティイメージズジャパンの代表取締役島本久美子氏は、その理由として、それまでプレーヤーにフォーカスした写真は多かったのに対し、レースの場面を撮影したスクリーンショットが非常に少なかったことを挙げ「リアルタイムでバーチャルの世界を配信できれば、バーチャル報道写真のビジュアルの幅が広がる」と述べている(webサイト『レスポンス』「eスポーツに報道写真のプロ集団が挑戦…ゲッティが参入する理由を幹部が明かす」)。

この撮影は、ベテランのフォトグラファーに発見をもたらした。25年以上のキャリアを誇るクライブ・ローズ氏は、これまで培ってきた撮影スキルが活かされる一方で、リアルなレースでは不可能なアングルで撮影でき、新しい表現が可能になったことを歓迎すると語っている。そして「レースカメラマンにとってバーチャルでの撮影は必須のスキルになっていくだろう」と予測したのだ(Number web:F1の凄腕カメラマンがeスポーツに。「現実では絶対に撮れないものを」)。

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