嘘のようなホントの話

2歳の子どもがいる23歳のシングルマザーが、じり貧だった地元の漁業を救ってくれと縁もゆかりもない漁師たちに頼まれる。そして、会社を作って自らが社長となり、何年もかけてその漁業を大きく変える――。

そんな物語が描かれる連続ドラマがスタートする。奈緒さん主演、堤真一さん、鈴木伸之さんらが周りを固める『ファーストペンギン!』(日本テレビ系毎週水曜22時~)だ。『世界の中心で、愛をさけぶ』『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』などを手がけた、森下佳子さんがオリジナル脚本で描くことも話題となっている。
『JIN―仁―』も時代を超えて医師が地域を救うリアルなヒーロー物語で多くの人の支持を集めた。これはリアルな物語が期待できるはずと思う人も多いことだろう。

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しかしこれは、実話をベースにしたリアル・サクセスストーリーなのだ。 
「23歳のシングルマザー」のモデルが、坪内知佳さん。2010年、山口県萩市から漁船で20分ほどの萩大島で、縁もゆかりもない漁業の世界に飛び込み、漁師らとともに立ち上げた「萩大島船団丸」の代表に就任。「月給3万円」の社長が誕生した。 そして漁師が水揚げした魚を、市場を通さず、料理店や消費者に直接販売する「6次産業化」を実現させたのである。2014年には「GHIBLI」という会社を立ち上げ、県外を超えて事業が広がっている。

漁業に携わっている住民が多い萩大島 撮影/畑谷友幸

簡単にドラマの物語をご紹介しよう。
人生がけっぷちの若きシングルマザー・岩崎和佳(奈緒)は、経営難に苦しむ漁師・片岡洋(堤真一)から、「1万円で俺たちの浜を立て直してくれ!」というオファーを受け、荒くれ漁師たちを率いることに。気の荒い海の男たちとぶつかり合いながら、和佳は、ド素人ゆえの大胆さで、古い常識や慣習を次々と打ち破っていく。

そしてこれは、嘘みたいだが坪内さん本人が体験した本当の話なのだ。
ドラマの放映翌日の6日に発売となる坪内さんの自伝『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』には、片岡のモデルである長岡秀洋さんら漁師と、時にはとっくみ合いとなるほど激しくぶつかりながらも、ビジネスを軌道に乗せた坪内さんの奮闘ぶりが詳しく描かれている。ここでは、坪内さんご本人にインタビュー。なぜ坪内さんは、12年もの間ブレることなく、数々の壁を超えていくことができたのか。その理由を掘り下げていきたい。

 

萩大島の漁業を守るために決めた「6つのルール」

著書『ファーストペンギン』の9章には、坪内さんが「船団丸」の6つのルールとして以下が挙げられている。

1)漁業者1人ひとりが、食べて下さる皆様へ想いを込めて「手当て」します。
2)いつ、どこで、誰がどのように獲ったお魚か、すべて管理をしています。
3)漁獲から加工まで、最長10時間以内の商品をお客様にお届けします。
4)独自の保冷方法(粋粋ボックス)を徹底することにより、高鮮度の鮮魚をお届けします。
5)高鮮度を保つために、冷凍商品は全商品、特殊冷凍を採用しています。
6)化学調味料、着色料、食品添加物なとは完全不使用です。
萩大島の新鮮な魚をどうやって新鮮なままお客様に届けるにはどうしたらいいか。坪内さんはそのやり方から考えた 撮影/畑谷友幸

この考え方は、まだ漁業についてズブの素人だった時代から、ほとんど変わっていないという。しかし、魚を獲ることだけが仕事だと思っていた漁師たちに、このルールを徹底するのは並大抵の苦労ではなかったはずだが……。

「みなさん、『大変だったでしょう』とおっしゃるのですが、全然、大変じゃなかった。ぼちぼちやってきたという感じです」
坪内さんは笑う。

始まりは2009年12月。旅館で仲居の手伝いをしていた坪内さんは、仕事中、萩大島の漁師である長岡さんに声をかけられる。坪内さんは当時23歳。翻訳やコンサルタントの仕事を細々としながら、2歳の息子を育てるシングルマザーだった。「パソコンの仕事もできる」と伝えたところ、最初は名刺のデザインの仕事も発注された。さらに年が明けて2010年1月、坪内さんは、長岡さんら3人の漁師に呼び出される。漁獲量が減っている今、魚を獲るだけでは生活できなくなるのは目に見えている、どうにかしてほしいと頼まれたのだ。漁業についての知識は皆無で、「萩大島の看板魚であるアジとサバの区別さえつかなかった」坪内さんだが、この呼びかけに応じ、漁港の改革に立ち上がった。給与は月3万円。長岡さんら3人の漁師がそれぞれ1万円を負担するかたちだった。