10月5日スタートの連続ドラマ『ファーストペンギン!』は、23歳のシングルマザーが萩大島の漁業を救う、嘘のようだが実話をベースにしたものだ。
奈緒さん演じる主人公のモデルとなったのが、坪内知佳さん。山口県萩市の沖合約8キロに浮かぶ大島、通称「萩大島」で、未知なる“漁業の世界”に飛び込んだ坪内さんは、漁師たちを束ね、捕った魚を市場を通さず直接販売する「6次産業化」を実現した。

始まりは2009年12月。当時、2歳の息子を育てるシングルマザーだった坪内さんは、ひょんなことから萩大島の巻き網漁師・長岡秀洋さんと出会う。後日、長岡さんから、「漁業の明るい未来を考えてほしい」と相談を受けたのである。しかし当然ながら、これまでまったく改革できていなかった漁業の世界で明るい未来を考え、それを実現させるには様々な壁が立ちはだかった。

旧態然とした漁業のシステムと真っ向からぶつかり、嫌がらせも受けた。漁師と意見が対立し、「出ていけ」と言われ、実際に出ていったこともある。激しい言い争いが取っ組み合いの喧嘩に発展したこともあった。しかし、坪内さんはブレなかった。

坪内さんがいかにして地方の漁業に奇跡をもたらしたのか。直接ご本人に伺うインタビュー後編では、多忙な日々のなかで、シングルマザーとして、2人の子どもとの関係をどう築いてきたかを深掘りする。

坪内知佳
1986年福井県生まれ。株式会社GHIBLI(ギブリ)代表取締役。大学中退後、結婚を機に山口県萩市へ移住。離婚後、漁師の長岡秀洋らとともに、2010年、任意会社「萩大島船団丸」を立ち上げ、代表に就任。農林水産省より6次産業化認定を受け、市場を通さず、全国の消費者や店舗に直送する自家出荷をスタートさせる。2014年に株式会社GHIBLIとして法人化し、「萩大島船団丸」をはじめとする、「船団丸」ブランドを展開している。最新著作は『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』。
 

「ぼくが死んだら、おカネがもらえるんでしょ」

坪内知佳さんの著作『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)は、ショッキングな言葉から始まる。

「ぼくが死んだら、おカネがもらえるんでしょ。そしたらママはずっとお家にいられるようになるの?」

実は長男が発した冒頭の言葉は、編集者の発案で書き加えられたものだという。
「原稿を書き終えたあとに、ホテルのラウンジで、ビールを飲んでいた編集担当に、なにげなく伝えたエピソードだったのですが、『この話は絶対に入れたほうがいい』と言われて(笑)」

この言葉を聞いたとき、保育園に通っていた長男が突然口にした言葉に、坪内さんはハッとしたという。
当時、いや今もだが、坪内さんは多忙な日々を送っていた。魚を買ってくれる顧客を開拓するため、長男を保育園に預けたあと、新幹線に飛び乗り、大阪の飲食店を訪ねて歩いた。コンサルタント業務や講演で、泊りがけで家を空けることも少なくなかった。

「小学校にあがる直前から小学校1年生にかけてだったと思います。心身ともに疲れているというか、少し不安定になっていて。『おうちに毎日、ママがいる家の子になりたい』とも言っていたこともありました。
お弁当を作るために家に帰るなど、できるだけ息子との時間を作るようにはしていましたが、息子が起きている時間に帰宅するのは難しく、24時間保育の保育園をフル活用。たしかに会話は少なくなっていました。

お弁当を作るために朝帰るなどしていたが…Photo by iStock

だからこの言葉を聞いた時はどれほど寂しい思いをさせていたのかと、ハッとしました。そこで、保育園を休ませて、私の講演旅行に連れていくことにしたんです。場所は東北で、たしか期間は1週間ほどだったと思います。旅先ではたくさん話をしました。帰宅してから、『これからもママのお仕事についてきて、一緒に働く?』と聞いたら、もういい、行かないって。私は、次の出張にも連れて行く気、満々だったんですけどね(笑)。それからは嫌がらずに保育園に行くようになりました。息子のなかで何かがふっきれたんでしょうね」