今年も日本各地に被害をもたらした台風。9月には12-18号が発生しました。
現在、JAMSTECで行われている台風研究において強力な武器となっているものが、地球上のひとつひとつの雲の動きを計算できる「NICAM(ニッカム)」という高性能な数値シミュレーション・モデルです(前編「世界中の雲の生成を計算して、台風の動きを予測する!」)。
この「NICAM」を用いて台風研究を行っている、環境変動予測研究センター・雲解像モデル開発応用グループの那須野智江主任研究員に、台風のメカニズムから「NICAM」を用いた研究の最前線までをうかがいました。

世界初の全球雲解像モデルの誕生
──NICAMはいつ生まれたんですか?
私は2000年からJAMSTECに所属していますが、その前は、大学院で雲の1つ1つを計算する「非静力学台風モデル」を用いて、雲がどのようにしてできて、最終的に台風になるのかを研究していました。JAMSTECに入った頃は、当時世界最高速度のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」がJAMSTECにもうすぐできるというタイミングでした。
そのとき、JAMSTECの松野太郎先生が、スパコンを使って全球の雲をひとつひとつ細かく計算するモデルを開発する研究プロジェクトを立ち上げたんです。
これがNICAMの始まりです。そのプロジェクトに、東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹先生(プロジェクトリーダー)と、理化学研究所の富田浩文先生、そして私が参加することになりました。
格子に区切る方法や、雲を計算する方法などを開発していき、2005年に、地球シミュレータを使って、世界に先駆けて全球の雲解像数値シミュレーションを実現させました。

雲解像モデル開発の裏側には!
──NICAMは雲解像モデルのパイオニアなんですね。
はい、その後、若くてエネルギーのあるメンバーが続々とこの「全球雲解像」モデル開発プロジェクトに加わり、今ではJAMSTECのほか、東京大学、理化学研究所、国立環境研究所などの多くの研究者と組織の枠を超えて共同開発しています。
NICAMはさまざまな世界初を実現してきました。
地球を3.5キロメートルという細かいメッシュに区切って10日先まで予測したり、14キロメートルの大きなメッシュで30年もの長期間の予測を行ったりしたのは、NICAMが世界で初めてです。
NICAMが出てくるまでは雲をひとつひとつ計算するモデルはありませんでしたから、それなりの大変さもありました。
たとえば、従来型の気候モデルとはちがった結果が出てくることもありました。地球温暖化が進むことで世界各地にどんな影響が現れるかを予測してみると、NICAMは従来型の気候モデルとはことなる傾向を出す場合があります。
原理的には正しいことをやっているはずですが、さまざまな調整は人間がやっているわけですから、もちろん不完全なところもあります。NICAMの結果が従来型の気候モデルよりもつねに正しいというわけではありません。しかし、従来型のモデルに真っ向勝負するわけですから、ある意味“とがった”仕事だと思います。まだまだ、雲解像モデルのパイオニアとして頑張らないといけないと思っています。
NICAMの予測精度を比較すると
──NICAMに得意分野・不得意分野はあるんですか?
今はNICAMだけでなく、世界各地の研究機関で全球の雲解像モデルが開発されています。雲解像モデル間で比較すると、モデルによって一長一短があることがわかっています。台風の予測に関していえば、NICAMはある程度標準的なパフォーマンスを出せているといえます。