2022.10.18
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54歳独身「高スペック男」はなぜ結婚できなかったのか?「条件」だけで女性を選んだ“自業自得”

恋愛、結婚をする能力に長けている男(すなわち「モテる」男)とは、高収入で社会的評価を得ていて、それゆえに女性に対して自信があるなど、「男らしさ」というジェンダー(性)規範を具現化できている男性だ。

これに対して、不本意ながら低賃金の非正規職に就いているなどで恋愛・結婚に自信が持てず、「男らしさ」を実現できていないのがモテない男性である。

深刻なのは、「男らしさ」規範を実現できていない男性たちが、現実から目を背け、モテないことを認めようとしない点にある。「男はモテなければならない」という「男らしさ」の固定観念に、いまだ囚われているがゆえに、モテないことは、「男としての敗北」を意味するからだ。

※本稿は、奥田祥子『男が心配』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

どこで彼は道を間違えたのか?

結婚「できない」のではなく、結婚「しない」のであって、それは決して「モテないからじゃない」。そう、彼らはまるで呪文を唱えるように、己に言い聞かせている。

男たちはなぜ、そこまでモテることに固執するのか。長期間に及ぶインタビューの過程で移りゆく心の機微を追いながら、深層に迫りたい。

 

「あぁー」「はぁー」。正確に文字に表すのは難しい。言葉とも感嘆詞ともとれない、男たちの哀愁漂うため息は聞き慣れていた。だが、この日の彼はいつもと違った。

インタビュー開始時からうつむいたままの頭を突然上げると、マスクが外れてしまうのではないかと思うほど、1、2分首を左右に振ってから、まるで振り子が止まったかのように真正面に顔面がピタリと静止した。

「孤立、無縁……。単なる孤独、なんかじゃない。もう誰も、僕のことに関心がないし、僕の存在にすら、気づいていない……」

Photo by iStock

2021年春、54歳の佐藤正さん(仮名)は腹の底から声を振り絞って話した。焦点の合わない瞳は時空を超え、己の過去を覗いて自省しているようにも見えた。十数年に及ぶ取材で、これほどまでに心細げで、はかなげな表情を見せたのは初めてだった。

「公私ともに不安を抱えて初めて、パートナーが必要な理由がわかったような気がしています。何人もの女性にモテれば、男として偉くなったような気になって、まともに恋愛もできなかった。結婚を考えたのも世間体のためで、男としてこうあらねばならないとこだわり過ぎて女性の中身を見ようとしなかった自分を悔やみます。こういうのを、自業自得って、いうんでしょうね」

「自業自得」という言葉を、まさか彼の口から聞くことになろうとは予想だにしていなかった。過去にさかのぼり、揺れ動く彼の心に迫ってみたい。

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