ありがたくない冬の風物詩「ノロウイルス」寒い時期になぜ流行る?

感染症プロファイル【9】

食中毒というと、このシリーズでもご紹介した「カンピロバクター」が、感染者数も多く、よくその名を耳にする病原体ですが、ノロウイルスによる食中毒もよく耳にします。ことに、気温が低下する秋口から春先にかけて、感染のピークがあります。

代表的な感染源としては、カキなどの二枚貝が挙げられていますが、この感染のピークを見せる冬場は、カキの美味しい時期でもあります。ノロウイルスの感染源は、カキのことが多いため、「カキの消費が増えるから、冬に流行する」と思いがちです。しかし、この時期の流行には、このウイルスの特徴に加え、感染源となるカキ(二枚貝)の生態が大きく関わっていました。

『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』を執筆された微生物学者の旦部幸博さんと北川善紀さんの解説で、病原体たちの「見事な」までの戦略、生態をご紹介するシリーズ。今回は、これからの季節に注意したいノロウイルスについて説明します。

カキ食えば腹が鳴るなり?

毎年、冬になるとニュースで流行が報じられるノロウイルス。家族がかかったら感染を広げないようにするのも大変です。ほかの食中毒と違って、なぜ人から人へうつりやすいのか、その特徴を解説します。

【写真】家族の世話していて感染「発病した家族の世話していて感染する」というケースも多い photo by gettyimages

ノロウイルスは、牡蠣(カキ)などの海産二枚貝の生食によるウイルス性食中毒(感染性胃腸炎)の主な病原体です。経口的にヒトに感染して、1~2日の潜伏期の後、激しい吐き気や嘔吐、下痢など胃腸炎の症状が現れます。重症化することは極めてまれで、2~3日すると収まります。

ただし、その症状はかなり激しく、経験者によるとトイレに篭りっきりで、便器から離れられなくなるとのこと。一度罹ると「もう二度とカキは食べない」と言う人も少なくありません。

日本における食中毒原因としてはカンピロバクターと双璧をなし、コロナ禍の前は毎年200件以上、数千~数万人のノロウイルス食中毒が発生していました。ただし、実際の感染者はそれよりもはるかに多く、年間で推定数百万人にも上ります。

感染経路が「いわゆる食中毒」だけでなく、患者の排泄物(下痢や吐瀉物)の飛沫や、それが乾燥したちり(塵埃)が感染源になって、患者から別のヒトへと伝染(糞口感染、便口感染)するためです。

*感染経路については、こちら〈新型コロナが定義も変える!? 生きるのに不可欠「食」「呼吸」を介する感染〉の記事もご覧ください。

"伝染する"食中毒

本来、「食中毒」とは、何らかの毒物や病原体を含んだ食品を食べて起きる病気の総称で、ヒトからヒトに伝染しないものを指すのが一般的です。同じ食べ物を介する感染症でも赤痢や腸チフスなどの「伝染病」とは別物だと扱われていました。

しかし、このノロウイルスや、O157などの腸管出血性大腸菌は例外だといえるでしょう。食中毒かそうでないかによって保健所への届出など、対応は変わりますが、症状はどちらも同じで、感染性胃腸炎の一種にあたります。

ノロウイルスは食中毒の病原体の中ではかなりの「新顔」で、1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークの小学校で発生した集団胃腸炎の原因として初めて報告されました。直径約30~38 nmの球状をした、エンベロープを持たないRNAウイルスで、その形状から当初は「小型球形ウイルス」(SRSV , small round-structured virus)と呼ばれていました。

【写真】ノロウイルスノロウイルス。アメリカ疾病予防管理センター撮影の写真 photo by gettyimages

その後、これと似たウイルスが世界各地で相次いで分離され、「カリシウイルス科ノロウイルス属ノーウォークウイルス」に命名・分類されました。「ノロ」は発見地であるノーウォークの最初の三文字(Nor)に由来します。なお「カリシ」はラテン語で「カップ」を意味するCalixに由来し、電子顕微鏡で見ると粒子表面にカップ状の窪みがあることにちなんだ名前です。

窪みは合計32個……ウイルス粒子の基本骨格である正二十面体の20の面心と12の頂点に位置します。サッカーボール(切頂二十面体)の各面が凹んでいる形をイメージするとよいでしょう。

ノロウイルスは現在10の遺伝子群(G I~G X)に分類されており、ウシやブタなど動物に感染するものも含まれます。ヒトから分離されるのはG IIがもっとも多く、まれにG I、G IV、G III、G IXも見られます。

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