観光で味わえないフランスの本当の田舎暮らし

『フランスの田舎暮らし』というと、どんな暮らしを想像するだろう。私は全く想像がつかなかったのだが、人口300人にも満たないその村には小さなレストランが1軒あるだけで、電車もバスも商店もなく、100年以上前に作られた石造りの家々が独特な雰囲気を醸し出していた。毎時間、村中に響きわたる教会の鐘の音が時刻を知らせ、広い牧草地で放牧された牛たちが自由に草を食んでいた。

電車もバスも商店もないという自然豊かなブルゴーニュの田舎町に滞在。写真/吉野なお

しかし、古い建物ばかりとはいえ、同じ一族が代々住み続けている訳ではなく、世代によって家主が変わりリノベーションしながら大事に維持され続けてきたという。義両親のようにリタイア後に夫婦だけで他の街から引っ越してきたり、バカンスの間の別荘として家を所有している人が多いようだった。

食事をしたり、洗濯物を干したり、猫とも遊んだりする中庭。猫と遊ぶママ。写真/吉野なお
 

夏のヨーロッパは、日本では信じられないほど日が長い。21時ごろまで明るいので思う存分遊べるうえに、湿度が低いため晴れた日でも日陰に入れば涼しく、蒸し暑い東京よりも快適に過ごせる。しかも義両親の家のまわりには、驚くことに蚊がいなかったため、大きな窓を開けっぱなしにして、自然の風を感じながら生活できた。深夜は村の街灯が消えて真っ暗になり、星空がよく見え、天然のプラネタリウム状態だった。

緑に囲まれた中庭で義両親たちと一緒に食卓を囲み、毎週土曜日の朝は車で近隣の街のマルシェ(市場)へ行き、一週間分の新鮮な野菜や果物などを買い込むのがルーティーンだった。日本では高価な果物も、キロ単位で安く美味しく、毎日果物を惜しまず食べられる幸せを味わった。「こんな生活ほんとうに実在するの?」と思うほど、絵に描いたような穏やかな田舎の生活がそこにはあったのだ。

毎週土曜日の朝は、マルシェで新鮮な果物や野菜を購入。写真/吉野なお