対話が成り立たない家庭で育った私が驚愕したこと
穏やかさを感じられたのは、そんな環境のせいだけではない。私はフランス語がわからないので、まるでホストファミリーの家にホームステイ状態だったのだが、義両親たちと一緒に生活させてもらってまず感じたことは、夫婦でも他の家族でもとにかく会話が弾むことだった。車の中でも食事中でも会話が絶えず、冗談を言い合い、じゃれあったり笑っていることが多かった。

日本の食卓ではサラダもメインも同時に並べて各自好きなように食べていく食事スタイルが多いが、フランスでは家庭でもフレンチコースのように順番が決まっていて、前菜→メイン→デザートと食べていく。みんながひとつの料理を食べ終えると、次の料理のためにホストがキッチンとテーブルを往復することになり、大皿から各自のお皿へ取り分ける作業などもあるため、「これはいる?いらない?」「もう終わりで大丈夫?」など、自然と小さな確認やコミュニケーションも必要だった。家族が揃ったところで、会話を楽しみながら、分け与えながら、時間をかけて食事をするのだ。

そんな賑やかな食事風景を目の当たりにしていたある日のこと、パートナーの家族とあるレストランで食事をした。ところが、このときはあまりにも会話が少なく「外食の時は静かにするのがこの家のルールなのかな?」と私も雰囲気を察知して静かに食事をしていた。ところが、後から聞くとレストランの食事が口に合わず、思わずみんな沈黙してしまっていたらしい(笑)。楽しい食事には美味しい食事が必要なのだ。
私はフランス式の食事スタイルに馴染みがなく、最初の頃はお代わりを勧められるがままに食べていたのだが、前菜でお腹いっぱいになって食べきれなくなることも多かった。次第に学習し、「ノー、メルシー(結構です)」と、適宜断りながら食事量を調整していくようになった。もし断っても、悲しそうにされたり「遠慮しないで、もっと食べなよ」などと無理に言われることもないので伝えやすい。
ちなみにフランスでは、食事に限らず意思表示をはっきりしたほうがいいと感じる場面がよくあった。何かのサービスを利用するときなど、日本よりもいい加減な仕組みになっていたり、説明通りにならないことも多いので、おかしいと感じたら必ず確認したり、断らないと損してしまうことがあるのだ。