2022.10.25
# 本

「政治通」な人ほど“陰謀論”にハマってしまうのには理由があった…!

『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』

VIPが人身売買を行う国際的シンジケート、新型コロナウイルスをめぐる生物兵器説やワクチン洗脳説、戦争を裏で動かす“闇の組織”、宗教と政治を牛耳る秘密結社……。

これらはいずれも荒唐無稽な「陰謀論」だ。しかし最近、2021年に起きたアメリカ連邦議会襲撃事件の首謀者たちのように、こうした陰謀論を熱狂的に信奉し、反社会的な言動を繰り返す人びとの存在にスポットが当てられ、世界的な問題と化している。

それでは、日本社会では陰謀論がどのくらい蔓延しているのだろうか? 京都府立大学准教授の秦正樹氏は、新刊『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』において、豊富な調査結果からその実態を明らかにしている。浮かび上がるのは、衝撃的な実態だという――。

『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』(秦正樹/中公新書)
 

一見「荒唐無稽」とも思えるが…?

2021年1月6日、民主主義を象徴する「あの」アメリカで起きた連邦議会襲撃は、世界中の人々が目を疑うような事件であった。2020年アメリカ大統領選挙において「選挙不正」を訴えるトランプ前大統領に共鳴した支持者たちが、バイデン大統領の就任を阻止せんと連邦議会を襲撃、死者を出すほどの暴力的な事態にまで発展したのである。何よりも、この事件が世界中を震撼させた理由は、すでに多くのメディアが報じているように、事件の首謀者たちが「Qアノン」と呼ばれる陰謀論を妄信していた点にある。

「Qアノン」は、2018年ごろから(主にアメリカ国内における)インターネット上で広まった陰謀論の総称である。Qアノンにはさまざまな陰謀論が含まれるが、それらの陰謀論の最大の特徴は、「ディープステート」と呼ばれる闇の秘密結社の暗躍がすべての「元凶」であると指摘する点にある。ディープステートを構成するメンバーは、バラク・オバマ元大統領やヒラリー・クリントン、あるいは熱心な民主党支持者として有名な歌手のテイラー・スウィフトなど、いわゆるアメリカ内のリベラル系有名人だとされ、さらに、ディープステートのメンバーは悪魔崇拝者や小児性愛者であり、「裏では」国際的な幼児等の人身売買に深く関わっているという主張も拡散された。

これらはQアノン陰謀論のごく一部の主張であるが、実に荒唐無稽でバカバカしいと考える人のほうが多いだろう。ところが、驚くべきことに、少なくないアメリカ人がこうした陰謀論を支持し、さらに議会襲撃まで引き起こしたのだから、「ただの陰謀論を真面目に考えるなんてバカバカしい」と笑って片づけるわけにもいかない。

なぜ、多くの人がこうした荒唐無稽とも思える陰謀論を信じるのだろうか。この古くて新しい謎を解く前に、まずは、陰謀論の持つ厄介な性質を確認しておきたい。世の中にはさまざまな陰謀論的な言説があるが、概して、「一般人は決して触れることのない秘密の集団の企みによって政治/社会的決定がなされている」と考える点で共通している。陰謀論を信じる人たちにとって、テレビや大手新聞などで報じられる情報は、一部の利益享受者のために「それっぽく」こじつけられたものに過ぎない。それに対して、陰謀論は、一般の人々は決して確認することができないところに「根本的な原因」を見出す傾向がある。

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