制作者が本当に内側に抱えているテーマかどうか

――当初のラブコメから180度違う“冤罪事件”という社会派なテーマになった経緯が気になります。

渡辺 ラブコメの企画が行き詰まっていた頃に、佐野さんがある冤罪事件についてのルポルタージュを読ませてくれたんです。私は本当に不勉強で、冤罪って映画やドラマのテーマとしてはよく見るけれど、それは昔の話で、今はもうそんなひどいことは行われていないだろうと勝手に思っていました。たぶん、怖いものは見たくないからそう思いたくて思っていたんでしょうね。

それが、佐野さんが持ってきてくださる資料や情報によって、冤罪がまだまだ現在進行形の問題であることを思い知らされた。正直、最初はまったく私のやりたいことではなかったんですけど、問題意識や危機感を共有することで、このテーマならこの人と最後まで同じ気持ち、同じ情熱を持って進めていけるぞ、と確信を持てたんです。

 

――今回に限らず、渡辺さんは映画やドラマの企画を進めるとき、まず最初にプロデューサーや監督と何度も対話を重ねて、共有できるものを見つけていくそうですね。

渡辺 おかげさまでいろんな方が島根まで会いに来てくださるんですけど(編注:渡辺さんは島根県に20年以上在住)、ヒットした原作小説を持ってきて「上からこれを映像化しろと言われました」みたいな感じで来た方との対話は、必ず途中で行き止まるんです。

プロデューサーや監督は、私と一緒に作品に対峙してくれるパートナーですから、モチベーションがその方の内側に本当にあるものでないと、うまくいかないんです。どんなにささやかなものでもいいから、その方個人の中にある思いやアイデアを探っていって、「これならどこまでも掘っていけるぞ」みたいなポイントが一つでも見つかると、不思議と最後まで走れるんですよ。

――本作の場合、佐野Pが本当に深く関心を持っていたのが冤罪事件だった、と。

渡辺 そうなんです。佐野さんはすごく変わった方で、日本のありとあらゆる犯罪についてとても詳しいんですよ。私だったらテレビ越しでも見たくないような凶悪事件を起こした犯人についてもよく調べていて。ただ、私にとってはそういう自分にないチャンネルを掘り当てたときが面白い。その人から吸い上げたもので「書けるぞ」と思うんですよね。