実在した人物をモデルに、男女3人の特別な関係を綴った作家・井上荒野氏の傑作小説『あちらにいる鬼』が映画化され、瀬戸内寂聴をモデルにした人気作家・長内みはるを寺島しのぶさん、その恋人である井上光晴をモデルとした作家・白木篤郎を豊川悦司さん、篤郎の妻である笙子(しょうこ)を広末涼子さんが演じる。

前編【広末涼子が特別な関係の間で「愛情はあらゆるものを超越する」と感じた瞬間】では、共演者である豊川悦司さん、寺島しのぶさんとの撮影中のエピソードなどを聞いたが、後編では広末さん自身が考える愛のあり方について、年齢を重ねることについて語ってもらった。

 

愛することは苦手じゃないと思う

さまざまな愛のあり方やカタチが描かれた映画『あちらにいる鬼』。この作品を経た広末さんは、ご自身の愛については、「子どもが生まれてからわかりはじめた」と言う。

「愛することは苦手じゃないと思います。比較対象がないから得意ですとは言えないですけど、『この人、好きだな』とか『この作品、素敵だな』とか、単純に『この服、可愛いな』もそうだし、素敵なもの、ポジティブなものに対する感度は高い方じゃないかな。その根底にあるのは好奇心だったり、感受性だったりすると思うんですが、それこそ愛の出発点かなとも思うんです。小さなきっかけが積み重なっていくことで、もっと大きくなって、愛することにつながっていく気がします。

若いときは、愛するとか、愛してるってちょっとわからなかったんです。好きか嫌いかと違って、『愛するってなんだろう』と。愛がわかりはじめたのは、やっぱり子どもができてからですね。普通に『愛してる』と言葉で伝えられるようになりました。私にとって愛は、無償の愛がしっくりきます。無条件に愛しくて仕方ないことが愛するってことなのかな?って。愛は終わりのないものということがなんとなく体感できるようになってきました」

撮影/生田祐介

広末さんの愛情表現はただひたむきに伝えること。子どもたちが眠りにつく前に「愛してるよ」とキスをして、出かけるときは「いってらっしゃい」とハグで送り出す。

「おはようと同じような感覚で、好きだよ、愛してるよって家族に伝えるんです。そうすると子どもたちも同じように返してくれて、ごくごく自然に日常の一部になっていきました。思春期に入るとどうしても言葉では言ってくれなくなるんだけど(笑)、ちゃんとハグはさせてくれます。愛を言葉や体のあたたかみで伝えることは、きっと自信や自己肯定感にもなると思うし、愛されてるっていう安心感につながることが大切。培ったベースがあれば、自立して距離が離れたとしても大丈夫だと思うんです」