気候危機という大きな困難を前にしても、立ち尽くすのではなく、一人ひとりが小さなアクションを積み重ねることで道は拓けるはずです。自ら積極的に学びながら、あるいは自然の最前線に身を置きながら、地球環境に目を向け、未来に向かって動き始める、いとうせいこうさんに話を聞きました。
いとうせいこう
作家、クリエイター。1961年東京都生まれ。大学卒業後、講談社に入社し「ホットドッグ・プレス」などの編集部を経て、退社後はヒップホップMCや執筆、舞台の演出など多岐にわたり活動。99年に刊行された『ボタニカル・ライフ―植物生活―』(新潮社)では趣味のベランダ園芸について、その楽しみを綴り第15回講談社エッセイ賞を受賞。2006年には園芸雑誌『PLANTED』(毎日新聞社)を創刊。21年にはダブポエトリーユニット「いとうせいこう is the poet」の1stアルバム『ITP 1』をリリースし、ツアーを開催。近年では国境なき医師団の現場を取材し、著書『「国境なき医師団」を見に行く』シリーズ(講談社)を上梓するなど社会活動にも積極的に参加。
かわいい植物が教えてくれた
地球環境の凄まじい変化
いとうせいこうさんは、80年代から音楽、文学、演劇など日本のカルチャーシーンを牽引してきた多彩なクリエイター。現在も幅広いフィールドで活躍している。2007年から放送されていたラジオ『いとうせいこう GREEN FESTA』(文化放送)で環境問題に取り組む人や企業を紹介するなど、当時から地球環境に対しての問題提起をしていた。環境問題について考えるようになったきっかけは、長年の趣味である園芸だったという。
「ベランダで園芸をはじめて約30年。今ではベランダに留まらず、部屋のなかにビニールハウスを設置しました。小さい植物の世話をしていると気候が変化してきたことがよくわかるんです。花屋になにか良い鉢はないかと覗くと、店先のラインナップが明らかに変わってきている。昔の東京では育つはずのなかった熱帯の植物が売り出されています。夏場の水やりも、今まで通りにやっていたら根腐れしてしまう。鉢をひとつ見るだけで我々が大変な世界に生きていることがわかります」

いとうさんは、以前から気候変動のことを「気候危機」と呼んでいる。これはあまりに急速に変化する状況を、冷静に見つめているからこその言葉の選択だ。
「経済思想家の斎藤幸平くんが『この環境の変化は気候危機と呼ぶべきだ』と言っていました。今年の夏も猛暑で、大雨が各地で降るなど異常気象や災害の恐怖にさらされました。このまま環境破壊が進めば、自分の子どもたちの世代はさらに大規模な天変地異に襲われる可能性が高い。これは命の問題ですし、人間にとって危機的状況です。今はかろうじて生きているけれども10年後はもうわからないというレベルまで到達してしまっていると感じています」