2022.11.07
# 野球

「これも天の定めちゃうかな」…西本幸雄と仰木彬 日本一に届かなかった二人の名将が残した「至言」と、貫いた「男の美学」

プロ野球ファンから今もなお愛され続ける「名将」たちのほぼ全員が、栄光の日本シリーズ制覇を目前に苦杯を喫した経験を持つ。彼らの残した言葉に注目すれば、その野球哲学と人生が浮かび上がる。

日本シリーズに8回出場し、全敗した西本幸雄

今年も、ヤクルトとオリックスが日本一を懸けた熱戦を繰り広げた。当然のことながら、全73回にのぼる日本シリーズにおいて注目されてきたのは、その年の頂点に輝いた勝利チームであり、それを率いた監督である。

一方、敗者が取り上げられるのはせいぜい新聞や雑誌の数行程度だ。「敗軍の将は兵を語らず」という美学も手伝ってか、その監督たちの行動や発言が日の目を見ることは少ない。

しかし、敗戦を受けた発言や行動にこそ、彼らの野球観や人柄が色濃く投影されている。惜しくも日本一に届かずに「敗れ去った名将」は何を思い、どんな言葉を発したのか。関係者の証言をもとに振り返ろう。

 

その監督人生において、8回も日本シリーズに駒を進めながら、一度も頂点に立つことができなかった男がいる。「悲運の名将」西本幸雄だ。

毎日大映オリオンズで1回、阪急ブレーブスで5回、近鉄バファローズで2回のリーグ優勝を飾ったが、ついに悲願を叶えることができなかった。'80年、近鉄を率いて8回目の日本シリーズに挑み、第7戦で敗北を喫した西本は、周りを囲んだ記者に「選手はそれぞれようやった。今まで愚直にやってきたが、ただ努力努力ではいかんような気がする」と漏らしたという。

講談社資料室

このシリーズで3試合に登板した鈴木啓示氏はこう話す。

「西本監督は、私が選手生活の中で中だるみを感じていた9年目の時に近鉄に来ました。監督の熱のこもった指導のおかげで、年間22勝、25勝を記録することができた。今でも本当に感謝しています。

'80年の時も、『このシリーズはお前が頼りだからな』と声をかけてくれ、なんとか監督を日本一の男にしたいと思っていました。他の選手も、同じ気持ちを持っていたはずです」

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