「賃金不払い残業……いわゆるサービス残業をさせる会社は不倫が多いです。なぜなら、残業代が支払われる会社は“早く終業せよ”と指導がありますが、それがない。また苦しい仕事を共に続け、同じ空間に居続けるので、恋愛が生まれやすいのです」と語るのは、浮気調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の山村佳子さん。

このコンプライアンス(法令順守)時代に、「ブラック企業」は依然と存在する。厚生労働省は定義こそしていないが公式サイト内で「(1)労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、(2)賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、(3)このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、などと言われています」と特徴を列挙している。

物価高の時代に、賃金不払い問題は切実だ。2022年に厚生労働省は、労働基準監督署が監督指導を行った結果、2021年4月から2022年3月までに、労働者に賃金不払残業をさせていた1069社に是正を行ったと発表した。

山村佳子さんのもとに相談に来たのは派遣社員の香織さん(仮名・43歳)。結婚18年、広告代理店に勤務する夫(44歳)との間に、16歳の息子がいる。

前編「「ブラック企業の夫が心配」結婚18年”きちんとした主婦”の「スケジュール管理」」では、香織さん夫妻の18年間をお伝えした。2人はブラック企業で先輩後輩として出会った。新卒だった香織さんに“下着を脱げ”などありえないセクシャルハラスメントをしてくる上司から香織さんを守ってくれたのが夫だったのだ。

それから専業主婦になり、一人息子と3人で暮らしていたが、夫の勤務時間の長さは変わらない。1年前に息子の大学進学資金を稼ぐために派遣社員になった香織さんは、労働時間が昔に比べて短縮されていることに気付く。そこで、同期だった女性に連絡すると、「ブラック職場は改善されたよ。あなたの旦那が帰ってこないのは、10歳年上の上司と付き合っているからだよ」と語ったのだ。
そのことを夫に伝えたら、「オマエと結婚したのは人生最大の失敗だ」と怒鳴られ、離婚を切り出されてしまう。しかし、そうしたくない。相手の女性には夫どころか孫もいるという。元のさやに納まるために山村氏に調査を依頼した。

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夫から無視される日々

夫に浮気の証拠となる、元同期の電話通話の録音を聞かせて以来、夫は香織さんを無視しているそうです。
しかし、息子と朝ごはんを食べるために、毎日帰宅をしているとのこと。夫の出社時間である朝7時の30分前から香織さんの自宅前で待機。この家は、香織さんの実家の持ち物で、家賃無料で住んでいるとのこと。白い壁のモダンな住宅で、1階に車庫がある3階建てのタイプです。

香織さんの実家が所有する23区の戸建てに家族は暮らしていた Photo by iStock

朝7時に息子と夫が家から出てきました。香織さんが「別れたくない」と強く願うほど、夫と息子は仲がよさそう。やはり、強烈な束縛をしてくる香織さんと生活をしていると、お互いに情報共有やグチが言いたくなるのかもしれません。

息子と夫は同じ電車に乗り、会話をしています。集音マイクでとらえた会話を解析すると、夫は「パパとママ、どっちが好きか?」と息子に聞いており、息子は「断然パパだよ。だってあいつ、バカだし、キモいじゃないか」と香織さんについて話していました。
途中駅で、息子は通学している都立高校方面に乗り換えていきます。息子は成績優秀で、スポーツもできる。快活な足取りで歩いて行きました。
そんな息子の背中を小さく手を振って見送る夫。息子と夫の心の結びつきは強いことも感じたのです。