2022.11.14

なぜ、名器「ストラディヴァリウス」はヨーロッパで生まれたのか?

300年の歴史を持つ、楽器の帝王の謎
世界にはさまざまな気候帯を持つ土地が存在するが、
そこで暮らす諸民族らが使う楽器と風土には強いつながりがある。
では、楽器の名器の数々は、なぜヨーロッパで生まれたのか?
そこには温度と湿度が深く関係していた!?
(※本稿は、郡司すみ『世界の音』を一部再編集の上、紹介しています)

楽器は「命を生む風」によって作られる!

風土という語は中国起源である。

漢代の『説文解字』では、生命を培う力となる光や熱、そして雨の水などは風に宿り、風が吹くことによって生まれる生命の中で最も早いのは虫であるところから、風という字は「風動いて虫生ず」と解説されているという。

風が生み出した地上の生命あるもので楽器は作られ、その音はふたたび風の中に帰ってゆく。

『説文解字』に倣えば楽器もまさに風土そのものということができるであろう。

同じ発音原理の楽器であっても、地域によってそれに用いられる材料が変われば形も異なり、音も違ってくることは、平素目にし耳にするところであるが、そればかりではなく、世界諸民族の楽器に見られるこのような問題をはじめとする地域差の多くは、風土に起因しているということができる。

楽器の命を生み出す風、すなわち空気の音に及ぼす影響は二段階に分けて考えることができる。第一は物が楽器になり音が出るまで、第二の段階は楽器から出た音が聞き取られるまでで、いずれの場合も空気の温度と湿度に起因する。

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材料に含まれる水分量によって音が変わる!?

音を出すために不可欠な振動体が振動するためには適当な弾力が必要であり、物体の弾力はその形と材質によるが、この二つの条件が同じでも材料に含まれる水の量によって弾力はかなり異なる。

楽器が作られている材料は金属や石、土などの鉱物を除けば、いずれも水分を吸収しやすい木や皮などが主体になっている。

日常生活でも経験するように、水分を含めば物は柔らかくなり、乾けばその反対となる。その最も明らかな例は日本の小鼓と大皷[おおつづみ]であろう。

小鼓の音は柔らかく、革を打つ位置や、調べ緒の張り方によって実に表現に富んだ音色を出す、世界でもまれに見る精巧な楽器である。一方、大皷の音は堅く突き通るようで、打つ位置を変えて変化がつけられる。

日本独特の口唱歌[くちしょうが]では、前者の音は「プ・ポ・チ・タ」であり、後者の音は「チョン・ツ」である。

この違いからも察せられるように、小鼓の革には適当な湿り気が必要で、濡れた調子紙を革の表面に貼ったり、息をかけたりしながらの水分の調整は奏者の大きな仕事である。

これに対して大皷の革は板のように堅く乾いていなければならず、奏者のかたわらに火を欠かすことはできない。

この二つの楽器は外見が非常に似ているが、胴の中央の細い部分に見られるわずかな形の違いと、何よりもこの音の「湿」と「乾」との違いから、小鼓は湿潤の南アジア、大皷は乾燥した西アジアを源とする楽器であると思われるのである。

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