2022.11.09

人生は遺伝5割、生まれた環境3割で決まっている――これは希望か絶望か?

9割近くが「親ガチャ」

「親ガチャ」と言うときには「実家の太さ」のような環境要因が主に語られる。しかし「遺伝」も選ぶことができないガチャ要素であり、知能や学業成績、学歴、収入にも遺伝が影響している。「遺伝はどうにもできないが、身を置く環境は行動によって変えられる」とよく言うが、しかし、その人がどんな環境を好ましいと思うかにも遺伝が影響している。

遺伝の影響はどのくらいあるのか。それを踏まえて保護者や学校にできることはあるのか。『生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SB新書)を著した行動遺伝学者の安藤寿康・慶應義塾大学教授に訊いた。

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遺伝と本人にはどうにもできない環境要因で8割は決まる

――遺伝も環境もどちらも「運」で決まってしまうガチャだ、というのは当たり前の生物学的必然であると安藤先生は書かれています。

安藤 遺伝と環境の影響は半々です。「環境は自分で選べる」「教育や政策で環境を変えれば人生を変えられる」と信じている人にとっては「半分」遺伝で決まっていると聞くと、大きく感じるかもしれません。

ただしたとえば数学の天才やプロスポーツ選手の両親から、数学の才能や運動能力をそのまま受け継いだ人が生まれるわけではありません。同じ父親と母親からでも、どんな人間が生まれるのかはかなりバラつきが生じます。その度合いは、社会全体で見たときの遺伝的なバラツキ具合の5~8割に及びます。ですから稀代の起業家の子どもがまったくの放蕩息子で親の財産を食い潰す、ということも起こりうるわけです。

――どんなパラメータを持った人間が生まれてくるかは親がどんな存在であれバラツキが大きいけれども、持って生まれた遺伝の部分は変えられないと。

安藤 環境に関しても本人がどうにもできない部分があり、行動遺伝学ではこれを「共有環境」と言います。どんな家庭に生まれるかといった要素ですね。学業成績や運動能力の場合、これの影響が約3割です。

本人でなんとかなる部分を「非共有環境」と呼びますが、たとえばIQに関して見ると非共有環境が左右する部分は1、2割しかありません。ですから遺伝5割+共有環境3割でおおよそ8割以上、9割近くは親ガチャで決まる。

さらに言えば、人間の持つ形質は遺伝的な影響を強く受け、ある一定範囲内に確率的に収まります。これを「セットポイント」と呼んでいます。たとえば足の速さや言語能力のセットポイントが3の人は、一時的な努力やたまたま出会う環境や状況によっては4になることもあるし、2になることもある。でも1や5にまでなることは、きわめてまれです。

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