2022.11.04
もう一つの「創業家の悲劇」——シダックス創業者と長男の「目に余る公私混同」
ソニー・盛田家、セイコー・服部家、ロッテ・重光家、国際興業・小佐野家など、有名企業の創業一族の、知られざる相続トラブルを、驚異的な取材力で明らかにし、大きな反響を巻き起こした『亀裂――創業家の悲劇』。
この本の著者の高橋篤史氏が、シダックスの経営迷走と、中伊豆のワイナリーにのめり込む創業者・志太勤氏、事業を継いだ長男・勤一氏らの動向などを克明に描き出す、『亀裂』番外編。
この本の著者の高橋篤史氏が、シダックスの経営迷走と、中伊豆のワイナリーにのめり込む創業者・志太勤氏、事業を継いだ長男・勤一氏らの動向などを克明に描き出す、『亀裂』番外編。
なぜここまでこじれたのか
物議を醸したTOB(株式公開買い付け)が10月31日、兎にも角にも成立したことで、約28%に上るシダックス株はユニゾン・キャピタルからオイシックス・ラ・大地へと引き渡された。
8月末に表面化した対立劇はそれぞれの思惑が入り乱れる複雑な構図を描いていた。市場価格より割安な買い付け額を提示する異例のディスカウントTOBに突き進んだオイシックス。
いまだ約33%の株を握り背後で同社を後押しする創業家。

両者の目論みに対し、3年前に再建支援に入った投資ファンドのユニゾンは疑念を膨らませ身構えた。そして、蚊帳の外に終始置かれた中立的立場のシダックス取締役会はTOBに対し公然と「反対意見」を表明した。
それからおよそ2カ月。紆余曲折の末、当事者たちはようやく矛を収め、事態は沈静化した格好だ。
なぜ、ここまでこじれたのか。その真因を探ると、創業家にまつわる好ましからざる事実の数々に行き着く。公私混同、一族内の綻びとその帰結としての後継者難――。かつてベンチャー界の大御所として時代を画した創業者の志太勤氏(現取締役最高顧問、88歳)が一代で築き上げたシダックスはいまや新たな「創業家の悲劇」として名を刻まれる運命をたどっているのかもしれない。