柳沢先生「生きるために必要な生活力の具体的な部分を補強するのは、やっぱり知識であり、勉強だから。机の上の勉強が嫌いだったら、料理を作ればいいんだよ。料理を作っていくと、いろんな知識が必要だということが、だんだん分かってくる。料理の味つけをするときに“さしすせそ”の順番でやると、うまくいくと言われるでしょ。最初に砂糖から使うのはなぜか。その理由を考えると、浸透圧の関係とか、もう化学そのものになる。
君の本にも書いてあったけど、子どもに家事をやってもらうメリットのひとつは、ほめるネタがいくらでもあることなんだ。たとえば料理だったら、卵がきちんと割れるようになったとか、味つけがうまくできているとか、具体的に成長をほめることができる。それが子どもにとっては大きな自信につながるんだよね。いろんな家事を通して、この子は一体何が好みなのか、何を得意としているのか、何に興味があるのか、というのも分かるから」
ぎん太「僕が一番好きな家事も、最近では料理ですね。何を作っても、下の弟が『うめえ! うめえ!』って言いながら食べてくれるので、あぁ、かわいいなぁと思って(笑)」
勉強する最終目的は、自分で稼ぐ力をつけること
ぎん太さんのマンガエッセイの中で、親たちが中学受験塾の高額な費用について話しているのを聞いた小学生のぎん太さんが、「庶民でも、時間やお金をそんなにかけないで楽しく勉強できる方法があればいいのに」と思うエピソードがある。家計内の“聖域”とされる項目の中でも断トツの教育費をはじめ、きれいごとではすまない切実なお金に関する話にも、子どもの視点で正面から向き合っているのが本書の大きな特徴だ。
柳沢先生「この世の中、勉強とその他を二元論で分けるから、非常に窮屈になってくるんだけど、実はぜんぶつながっているんだ。勉強する最終的な目的とは、自分で稼げる力、生活力をつけること。その生活力を支える上で、知識というのが非常に有力な武器になる。
本の中で、お母さんが君に家計簿を見せながら、家計状況について詳しく説明する話があるでしょう。あの部分を読んで、あぁ、これはすばらしいなと思ったよ。今の子は、お金のことをあまり教わらないで、お金はATMに行けば、ジャラジャラと出てくるものだと思っているから。そうすると、今度は自分で就活するときにビックリしちゃう。
僕は開成の校長時代によく生徒たちに『たとえば時給1000円で1年間働くと、いくらになる? その金額で、どういう生活になるかを考えてごらん』と話していたんだ。生活するとはどういうことかを、きちんと子ども本人に伝える。それが特に反抗期の後期の子どもには必要なこと。だって、これから先、自分で稼いで生きていくようになるわけだからね」