この本の著者の高橋篤史氏が、シダックスの経営迷走と、中伊豆のワイナリーにのめり込む創業者・志太勤氏、事業を継いだ長男・勤一氏らの動向などを克明に描き出す、『亀裂』番外編。
第二、第三の会社が接近
シダックスがオイシックスとの間でフード関連事業の提携交渉を始めたのは昨年2月のことである。ただし当初それはいくつかある選択肢のひとつにすぎず、交渉の歩みは遅々としたものだった。そんな中、ユニゾンを通じシダックスに接近した別の企業が現れる。外食大手のコロワイドである。

年が明けた1月中旬、勤一氏はコロワイドの野尻公平社長と会食、さらには6月中旬、コロワイド自慢のセントラルキッチンの視察にも赴いている。
さらにそうした間、第3の企業も接近してきた。
かつてセゾングループの西洋フードサービスを傘下に収めたことで知られる英コンパス・グループである。コロワイドもコンパスもフード関連子会社に少なくとも過半の出資を行うことを望んでいたとされる。
そうした中、第2回で記述したように創業家はユニゾンに不信感を抱き、オイシックスと急接近を始める。そして髙島宏平氏を後継者と思い定めていった。そこでカギとして浮上したのが創業家とユニゾンとの間で3年前に結ばれた株主間契約だ。
一定条件の下、創業家はユニゾンが保有するB種優先株(または転換後の普通株)を指定先に譲渡するよう請求できるというものである。これを発動すれば、ユニゾンを追い出し、オイシックスを招き入れることができ一石二鳥だ。さらにその第2段階として自社株交付スキームが考え出された。
シダックスはオイシックスが保有するに至った自社株を対価として受け取り、フード関連子会社株をオイシックスに譲渡するわけである。それはまさに祖業である主力事業を後継者たる髙島氏に承継するシナリオと言えた。
4月末に行われた創業家・ユニゾン・オイシックスの三者協議ではこのスキームが俎上に載せられたようだ。この時点ではユニゾンが株主として一部残る選択肢もあったようだが、不信感を強める創業家は排除へと舵を切っていき、さらに事を急いだ。B種優先株の譲渡額は6月末までに実行されれば80億円とされていたが、それ以降は100億円に上方修正されるよう決められていた。
創業家はその回避を目論んだ。つまりオイシックスが有利な条件を享受できるよう動いたのである。6月14日、創業家はユニゾンに対し優先株の譲渡請求権を行使すると通告、6月末までの実行を迫った。