2022.11.15
# 超弦理論

〈特別対談〉宇宙の謎はなぜパズルで解けるのか

「美しさ」を求めれば「真理」にいたる

宇宙の謎を解く究極の理論とされる「超弦理論」の確立に大きく貢献したカムラン・バッファ氏は、ハーバード大学では理系1年生を相手に、パズルを使って物理学の講義をする変わった先生でもある。

バッファ氏は言う。「理論物理学者の仕事は、複雑な問題を単純なパズルに置き換えることだ」。バッファ氏の奇抜なアイデアが満載された著書『宇宙を解くパズル』の刊行を記念して開催されたオンライン講演会「直観に反する宇宙」において、長年の親友である大栗博司氏が、なぜパズルで宇宙の謎が解けるのかを聞いた。

この記事は、10月19日に開催されたオンライン講演会「直観に反する宇宙」での両氏の対談を要約したものです。講演会の模様については、youtubeにて、全編公開中です。

オンライン講演会「直観に反する宇宙」は、こちらから(https://youtu.be/-Li4hs6KQlQ)

「対称性」の本質が表現されたパズル

大栗 これまでに一般の人々に向けて書かれた科学書はたくさん出版されていますが、その多くは、科学的探究の結果について説明するものです。「これが事実だ」と言われれば、読者はそれを受け入れることしかできません。

でも、今回バッファ先生が出された本『宇宙を解くパズル』は、まったく違います。この本では、科学者が真理を発見するまでのプロセスが説明されています。そこがもっとも興味深いところです。

バッファ 多くの人は、科学者がやっていることは「知識」の蓄積だと思っていますよね。しかし、じつは科学では、知識の集積よりも、科学的な「方法論」のほうがずっと価値が高いのです。「ブラックホールが存在しますよ」「宇宙はこうなっていますよ」という知識を示すだけでは、一般の人々には科学者がその事実にどう向かっていったか、という方法論がわかりません。

だから私は、読者にパズルを科学者がやっているのと同じようなプロセスで考えてもらうことで、科学の方法論を理解してもらおうと思いました。私たちがやっていることはパズルよりずっと複雑で高度だと思われがちですが、物理学の奥まで入り込むと、じつはよく似ています。物理の問題を考えることは、単純なパズルを解くことと同じなのです。

【写真】「物理の問題を考えることは、単純なパズルを解くことと同じ」と説くバッファ氏「物理の問題を考えることは、単純なパズルを解くことと同じ」と説くバッファ氏

大栗 先生がご紹介されたパズルの中では、まず、緑と白のペンキのパズルは「対称性と保存則」のことを非常によく表していると思います。20世紀初頭に数学者のエミー・ネーターが、対称性があると保存則がある、保存則があると対称性があるという「ネーターの定理」を発見しました。これは非常に抽象的な概念なのですが、このパズルは日常的な例であるにもかかわらず、定理の本質をついています。

『宇宙を解くパズル』に挑戦! その1

缶が2つあって、一方には緑のペンキが、もう一方には白のペンキが入っている。缶は同じ大きさで、入っているペンキの量もまったく同じだとしよう。ここで緑のペンキを少量すくって、白の缶に入れる。次にその混ざったペンキの缶から同じ量をすくって、緑の缶に戻す。

そこで問題。白の缶に入っている緑のペンキの濃度と、緑の缶に入っている白のペンキの濃度、どちらのほうが高いか?

【イラスト】濃度、どちらのほうが高いか? 緑の缶から少量すくって白の缶に入れ、混ぜたのちに同じ量を戻す

バッファ 数学の詳細な説明をしなくても、このパズルを考えればネーターの定理についてわかってもらえると思っています。数学者ではなくとも「エネルギー保存の法則」はご存じでしょう。エネルギーはある形から別の形に変換されて、失われることはない。それが「時間の対称性」と同じであるとするネーターの定理は、驚くべきものでした。きわめて美しい法則だと思います。

大栗 対称性が破れることも物理学では重要な意味をもつわけですが、そのことを説明しているのが、「4点を結ぶ最短距離のルートは何か」という高速道路のパズルですね。これもよい問題だと思います。私はこのパズルで、自発的対称性の破れの理論でノーベル賞を受賞した南部陽一郎先生の、「自然の法則は単純だけれども世界は退屈ではない。その組み合わせはすばらしい」という言葉を思い出しました。

「最短距離を探しましょう」という要件は小学校の算数のようにシンプルなのですが、その解はとても複雑なものになります。

『宇宙を解くパズル』に挑戦! その2

4つの都市が、正方形の4つの頂点をなすように並んでいる。隣の都市までの距離は100km 。最小のコストですべての都市を結ぶ高速道路網を考え出してほしい。

高速道路を1km建設するのに10万ドルもかかるので、全長をできるだけ短くしたい。ただし、すべての2都市間を最短経路で結ぶことは求められていないし、コストの総額が最小になるかぎり、どのような順番で都市を結ぶかも、まかせられている。

必要条件はただ1つ、どの都市からどの都市へも高速道路で行けるようにすることだ。

【図】どの都市からどの都市へも高速道路で行けるようにするには?

バッファ 私は子どもの頃から算数が大好きで、パズルを解くのも大好きでしたが、その後、物理学に精通するにつれて、大好きなパズルと物理の法則とをつなげることができました。物理で学ぶことは、ほとんどがシンプルなパズルになると気がついたのです。

私にとって関心があるのは、複雑な数式ではなく、本質的なアイデアです。理解を確実にするためには数式も使いますが、ずっと重要なのは、物事の本質です。だからこの本でも、物理の本質はパズルによってとらえられることを書こうと思いました。

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