2022.11.15
# 本

作家・池井戸潤が明かす『ノーサイド・ゲーム』誕生秘話「正義を問うためには、まず正直でいなければ」

現代ビジネス編集部

スポーツ小説も、結局は「人間」を描く

ドラマ撮影のタイムリミットが迫る中で物語の再構築に取り組んだ池井戸氏は、「正直なところを書くしかないと腹を括った」と、当時を振り返る。

「ラグビーに対して、あるいは協会に対して批判的な内容と捉えられるかもしれないし、ラグビーを盛り上げようというムードに水を差すことになるかもしれない。でも、自分自身に嘘をつくような小説は、やはり無理だと」
 
《大事なのは、どうあるべきかを正しく判断することだ。誰でもわかる当たり前のことなんだよ》

作中、主人公がいみじくも言ったことを、作者として実行。書き上げられた『ノーサイド・ゲーム』には、旧弊な体質の協会に反旗を翻し、地元に貢献するチームとしてアストロズの体質改善を行いながら経済的自立を目指す君嶋たちの姿があった。同時に、社内の反発勢力との対決を通して会社員としての君嶋の再起が描かれ、グラウンドと会議室の両方で闘う物語が誕生。ことに、君嶋と最初に対立した営業本部長・滝川桂一郎の相剋とその後の成り行きは、両人の背景となるエピソードを丁寧に紡いだことと、放送されたドラマにおける大泉洋と上川隆也の名演もあって、強く心に焼きつくものとなった。

 

「スポーツ界を舞台にした小説といっても、やはり基本は人間ドラマ。登場する人物はそれなりの時間と背景を背負って成立している存在ですから、人物の人となりはしっかりと書き込まなくてはなりません。物語の中盤から登場し、アストロズの中核プレーヤーとなる七尾圭太(眞栄田郷敦・演)は、ニュージーランドのスター選手で日本のサントリーサンゴリアスでもプレーしたボーデン・バレットをイメージしたキャラクター。ラグビーシーンはどう書いても映像には敵わないので、実況的な肉体描写ではなく、心の動きに注力しました。読んだ方が感動してくださったとしたら、それは内面への共感だと思います」

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