
縮んでつぶれる? 突然死する? 最新理論が予測する「宇宙終焉」5つのシナリオ
科学が織りなす「現代の神話」「前の宇宙」と「今の宇宙」
マックが解説しているのは、エキピロティック宇宙モデルとよばれるタイプである。特異点の厳密な記述には、既存の物理法則は使えず、一般相対性理論と量子論を結びつけた量子重力理論が必要だが、未完成だ。
その最有力候補である超弦理論の一種、「ブレーンワールド」宇宙モデルでは、四次元時空のほかに高次元が存在し、この宇宙は高次元空間に浮かぶ「ブレーン」という膜のようなものだとする。
このようなブレーン宇宙どうしの衝突としてビッグバンを説明するのがエキピロティック宇宙モデルだ。衝突のエネルギーから物質が生まれ、その際にビッグバンの状態になったという。この宇宙論の最新版では、前の宇宙の情報が存続することもありうるというから興味深い。
永久不滅の「マザー宇宙」!?
マックがほとんど論じていないものの一つに、「多宇宙説」がある。
量子論の多世界説は、量子効果で無数の世界が生まれるという説だが、宇宙論では、インフレーションは永遠に続くとする永久インフレーションの観点から、無限に膨張を続ける宇宙の中に、泡宇宙が無数に生まれており、この宇宙もその一つだとする説がある。
この立場では、個々の泡宇宙は終焉を迎えるが、永久インフレーションを続けるマザー宇宙は不滅だということになりそうだ。量子論の多世界と宇宙論の多宇宙が同じなら、この宇宙が滅びたあとに、そっくりな歴史が繰り返される永劫回帰的シナリオも、別の泡宇宙でそっくりな歴史が繰り返されるかたちで実現するかもしれない。量子論の多世界説では、よく似ているが細部が異なる並行世界が多数存在するからだ。
この宇宙が滅んでも、別の泡宇宙でよく似た世界が存続しているかもしれないと思うと面白い。

科学を使って「物語」をつくり上げる
今後の観測でデータが蓄積され、理論もさらに向上するだろう。「宇宙の未来」に関する予測も書き換えられるだろう。
宇宙の未来を科学で予測するとき、私たちは科学を使って物語をつくり上げているのだと思う。自らの限界を超越して、「永遠」というものに手を届かせたいと願う人間の取り組みの一つだ。
かつて人類は神話をもっていた。いま、神話をもたない人が多いが、たとえばスケールの大きなSF物語にはまるのは、そこに感応できるものがあって、価値観や指針を与えてくれるからではないだろうか。
マックが描く宇宙の物語も、人間よりもスケールの大きな何かがここにあるよ、と示してくれている。そんなマックの宇宙終焉ストーリーを、日本の読者のみなさんにもぜひ楽しんでいただきたい。