防災に欠かせないハザードマップ
火山灰などの噴火災害から身を守るためには、どこが危険なのかを示した地図が必要である。それがハザードマップ(火山災害予測図または火山災害危険区域予測図、英語ではvolcanic hazard map)である。噴火が発生したらどの地域にいかなる危険が及ぶのかを示したもので、火山防災で最も重要な役割を占めるといってもよい。
ハザードマップにはさまざまな目的がある。住民に対して噴火現象そのものについて理解してもらうこと、住民や観光客が安全に避難できるルートを示すこと、避難のための施設を整備すること、火山活動のないときにどのような土地利用をすればよいかを示すこと、などである。
一般に、火山は繰り返し噴火を起こすので、類似した現象が見られることが多い。噴火のもたらす災害にも共通点があるため、現在までの噴火履歴をくわしく知り、将来に備えることが重要である。そこで、過去数百〜数千年間の噴火の様子から、噴火地点、噴火の推移、様式や規模の変化などを推測し、地図にしたものがハザードマップなのである。
ハザードマップは1970年代から、活火山をもつ世界各国で作成が始まった。日本でも活火山の山麓にある防災意識の高い自治体で作られはじめた。その後、1992年に当時の国土庁が「火山噴火災害危険区域予測図作成指針」を公表し、全国的にハザードマップが作成されるようになった。しかし、海底火山と北方領土を除いても、日本にある111個の活火山のうち、まだ4割程度の40あまりの火山でしか完成していないのが現状である。
参考:国立研究開発法人防災科学技術研究所による「火山ハザードマップデータベース」(https://vivaweb2.bosai.go.jp/v-hazard/)
これに対し、富士山には2000年に入ってもハザードマップがなかったが、同年10月に噴火の予兆である可能性がある低周波地震が発生して、急遽作られることになり、4年後の2004年春に、ようやく富士山全域のハザードマップ(全体のハザードマップ)が公表された。後ればせながら、火山防災の基礎地図ができあがったのである。

降灰被害が読み取れる「ドリルマップ」
火山灰が大量に積もると、地層として残る。降り積もった火山灰は過去の噴火の証拠となる。富士山では宝永噴火や平安時代の貞観噴火の証拠にもとづき、今後の予測がなされている。
では実際に、富士山のハザードマップではどのように描かれているかを見てみよう。火山灰の積もり方については、まず季節ごとの降灰分布を示す地図が作成される。基本的に日本の上空には偏西風が吹いているので、火山灰は東の方角へ飛んでいく。
しかし、季節によって風の向きは多少異なる。たとえば、冬のあいだは強い西風が吹いているので、火山灰は東へ集中的に飛ばされるが、夏のあいだは風向きが変化しやすいので、火山灰は全方向に散る傾向がある。このため富士山の西の方にも、若干の火山灰が降ることが予想されている。
こうした降灰の変化をすべての月ごとに示した地図を降灰の「ドリルマップ」という。
次に、月別に描かれた降灰の「ドリルマップ」をすべて重ね合わせた地図を作成する。これを降灰の「可能性マップ」という。

1枚で12ヵ月分を一度に見渡せるように重ねた図というわけだ。火山灰の積もる厚さから被害が読み取れる便利な図ともいえよう。