日本の気候は予測が難しい!
──エルニーニョ現象やラニーニャ現象によって日本の気候がどう変化するかは、どれくらい正確に予測できるんでしょうか?
気候について考えたとき、実は日本は非常に複雑な場所にあって、予測がとても難しいんです。
日本の気候には、エルニーニョ現象やラニーニャ現象といった熱帯からの影響だけではなく、西の大陸側からの影響や高緯度側からの影響など、いろんなことが影響してきます。
エルニーニョ現象が起きると日本では冷夏・暖冬になる傾向がありますが、そうならないこともあります。あくまでも傾向なんです。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が日本の気候に与える影響は、地域や季節によっても変わりますが、ざっくり言って半分ぐらいではないでしょうか。
たとえば、1年後にエルニーニョ現象が発生することをばっちり予測できたとしても、日本が冷夏あるいは暖冬になるかどうかの予測が当たるのは、半々といった感じなんです。
カギは「大気と海洋の関係」に
──高性能なSINTEX-Fをもってしても難しいんですね。
シミュレーションで予測を行う際には、海面水温などの海の情報に加えて、偏西風などの大気の情報ももちろん計算して予測します。ただ、比較的変化がゆっくりと起きる海とちがって、大気は短い期間で急に変わってしまうことがあります。
海と大気は密接に関わり合って変動していることは間違いないのですが、大気は海とは関係なく、大気だけの都合で変動することもあります。たとえば海面水温とは無関係に、偏西風が蛇行しはじめたりします。そんな大気の変動を何ヵ月も前から予測することは、原理的に難しいんです。
──なるほど。大気の状態の予測が難しいことがよくわかりました。
日本はとくに大気の変化を予測しづらい地域なんですが、エルニーニョ現象がもっとはっきりと大気に影響を与える地域もあります。
北アメリカはエルニーニョ現象の影響が日本よりもはっきりと出ることが知られています。エルニーニョ現象が起きると、たとえばアメリカの西海岸は南風が吹きやすい気圧配置になります。その結果、シアトルなどの西海岸の都市は、かなりの確率で暖冬になるんです(図5)。

エルニーニョ現象の影響がはっきり出るので、アメリカの人たちにとってエルニーニョ現象の発生はかなりの関心事です。そのため、初期のエルニーニョ現象研究は、アメリカですごく進みました。