エルニーニョ現象と異常気象の複雑な関係
──今年の夏も、日本では台風や豪雨の被害などがありました。エルニーニョ現象やラニーニャ現象と異常気象には、どんな関係がありますか?
まずはじめに、エルニーニョ現象やラニーニャ現象そのものは本来起きないはずの異常な現象ではありません。
最近では、古気候の研究が進んでいて、珊瑚礁などに記録されている過去の海水温の情報などを分析すると、数千年前からエルニーニョ現象やラニーニャ現象が起きていたことがわかっています。世界各地に影響を及ぼしますが、地球の気候システムの中で起こるべくして起こる普通の現象ではあるんです。
異常気象とは、たとえば気象庁の定義では30年に一度以下の頻度でしか起きないような、極端な気象のことを言います。極端な高温や大雨などが当てはまります。
たとえば、強いラニーニャ現象が起きると夏が暑くなる可能性が高まりますから、極端な高温日の発生に、ラニーニャ現象が影響を与えていると言えるでしょう。ただ、ラニーニャ現象が起きていなくとも高温になった可能性もありますから、どれくらい関連があるかを示すのは、詳しいシミュレーション実験をしてみないと、なかなか難しいところだと思います。
地球規模で起きるエルニーニョ現象やラニーニャ現象は冷夏や暑夏といった季節的な気温に影響するのに対して、高温や大雨は、地域も限定的で時間も短い現象です。スケール感がかなりちがう現象なんですね。

日本の気候の仕組みをもっと理解したい!
──しかも、さまざまな影響を受ける日本の気候では、エルニーニョ現象などと異常気象を結びつけるのは、とても難しそうですね。
そうなんです。それでも、低気圧の発達の仕方や海流の変動などをもっとよく表現出来るようなもっと細かい格子のモデルを使ってより精密な予測をすることで、日本周辺の気候予測をもう少し改善できないだろうかと考えています。エルニーニョ現象やラニーニャ現象の影響で今年はかならず暑くなります、あるいは寒くなりますと言い切るような予測は、やっぱり原理的にできません。けれど、天気予報の降水確率のように「暑くなる確率は何%」といった形で予測することは可能だと思います。今はまだそこまでの予測は難しいのですが、将来的に実現したいと思っています。
そのためには、日本がある中緯度域における、海と大気の関係性ももっと理解する必要があります。海水温が高く海水が蒸発しやすいために、海と大気の関係性が強い熱帯に比べて、中緯度域では海と大気の関係性はそれほど強くありません。海の変動に対して大気がどう変化するか、いま多くの大学や研究所が参加するプロジェクトで盛んに研究されています。
中緯度域で海と大気の関係性を明らかにすることは難しい課題ですが、今後の日本の気候予測にとって非常に重要なことだと思いますし、私自身にとっても大きな研究テーマなんです。
