「喰らうは生きる。食べるは愛する。いっしょのご飯がいちばんうまい」。そんなメッセージとともに現在公開している、沢田研二さん主演、松たか子さん共演の映画『土を喰らう十二ヵ月』。食の四季を撮るために、1年6ヵ月という邦画では異例ともいえる長きに渡って撮影されたこの作品。沢田さん演じるツトムの隣で、終始美味しそうに、幸せそうに料理をほおばる松さんの姿が印象的だ。
共演した沢田研二さんとのエピソードをはじめ、歌舞伎という伝統芸能の家系に育ち、伝統的な食文化に触れる機会も多かったであろう松さん自身の「食」の思い出やこだわりについても伺った。
ただただ“おいしい”思いをさせてもらった
長野の山荘で暮らす作家のツトム(沢田研二)は、自分で育てた野菜や、山で収穫した木の実やきのこなどをいただきながら、原稿をしたためる毎日を送っている。そんな彼のもとを時折訪れるのが、編集者で恋人の真知子(松たか子)。彼女と旬の料理を一緒に味わう時間は豊かで格別なものだった。しかしツトムは、13年前に亡くした妻の遺骨を今も墓に納められずにおり、真知子はまた、そのことに複雑な思いを抱いていた……。
美しい自然、美味しい食、そして主演はあの沢田研二さん。魅力的な要素がありすぎるといっても過言ではない本作だが、松さんが「出演したい」と思った最大の決め手を伺った。
「中江裕司監督に声をかけていただいたこと、沢田さんと映画でご一緒できるという機会、大きくはこの2つです。さらに自然豊かな山の中で季節ごとに撮る、という撮影スタイルにも興味があって。そうしたら料理研究家の土井善晴さん監修の美味しいご飯もついていて、ワーイ!って(笑)。私はただただおいしい思いをさせてもらっただけと言ってもいいくらい、本当に楽しいお仕事でした」
松さんが演じているのは主人公・ツトムの年の離れた恋人。実際にも沢田さんと松さんは29歳の年の差があるが、演じるうえで何か意識していたことはあったのだろうか。
「実はあまり考えていなかったんですよね。本当に私は、『沢田さんと共演できるんだ〜』と臨んでいたので、設定とかは何とかなるんじゃないか、くらいの感じで。本当はそんなお仕事の仕方はいけないんでしょうけど(笑)。ただ何でしょうね、ツトムさんは常にモテモテの人で、たまたま今隣でご飯を食べているのが真知子である、というだけでもいいと思うんですよ。だから、真知子はそれくらい何気ない存在だけど、ツトムさんに人の気配を与えられる存在でもある……そうなれたらいいな、とは思っていました」
