国民的女優・泉ピン子さんの連載第6回目。人生相談や時節を感じさせるテーマなどをピン子さん流のユーモアを交えながら、ざっくばらんに語っていただきます。「人生、いい日もあれば悪い日もある」とピン子さん。豊富な経験に裏打ちされた人生トークに心の底から共感すること必至です。今回のテーマは「先輩の背中を見て学んだこと」。

これまでのピン子さんの連載を読む→“ピンからキリまで”おんなの流儀

 

舞台では、暖簾をくぐって力をもらう

撮影/田上浩一

8月に始まった舞台「すぐ死ぬんだから」の旅公演が、もうすぐ終わります。舞台に入ると、楽屋の入り口に暖簾をかけるんだけど、私の暖簾には夏用と冬用があって、どちらも杉村春子先生から頂いたものです。もしかしたら杉村先生をよく知らない人がいるかもしれないので一応説明すると、先生は、戦前から日本の現代演劇の屋台骨を支え続けた大・大・大女優。戦前、当時の名だたる小説家や劇作家の人たちと一緒になって、劇団「文学座」を立ち上げたんだけど、そのときでまだ30歳ぐらいだったっていうんだから! 映画にもたくさん出演しているから、若い方でも、顔を見たら「ああ、知ってる」と思うんじゃないかしら。

舞台のとき楽屋にかける暖簾は、先輩にプレゼントしてもらうのが、昔からの芸能界のしきたりです。私が舞台に出るようになって、自分だけの楽屋がもらえるようになった頃に、杉村先生がくださった暖簾には、さりげなく「杉村」っていう文字が書いてあって。私、なんでもはっきり言っちゃうタイプだから、「先生、これじゃ料亭みたいです。先生の名前を入れてもらえるなら、“杉村春子”ってフルネームか、せめて“春子”にしてください」って言ったら、年が明けて春を迎える頃に、浅葱色をした絽の暖簾をくださいました。そんなことしていただいたの、芸能界広しといえど、たぶん私ぐらいでしょう。エッヘン。

もう一つ、橋田(壽賀子)先生から頂いた暖簾もあって、それはすごーく豪華。今回の舞台でも、杉村先生に頂いた暖簾と橋田先生に頂いた暖簾を、地方にも持って行って。それをくぐるたびに力をもらう気がしていました。

杉村先生にはずいぶん可愛がっていただきましたね。芝居に関しては貪欲で、自分がやりたかった役を他の人が演じたり、自分が好きな俳優が、若い女優相手に息のあった芝居なんかをすると嫉妬してたなんて話も聞くけど、私には、「私とあなたは年齢が違うし、役がかぶらないからいいの」みたいなことをおっしゃって。人を褒めないことでも有名でしたけど、私が舞台で共演して、自分の出番がないときに杉村先生の芝居を目を凝らしながらずっと見て、なんでも盗もうと頑張ってたら、千秋楽のあとで、「よくやるようになりました、あなた」って。今でいうツンデレだったのかも(笑)。