引力を感じなくなる時
最初に失われるのは、最も大きく、最も希薄な結びつきだ。巨大な銀河団の中では、数百から数千の銀河が、絡み合った長い軌道に沿ってゆっくりと運動しているが、その軌道が長くなっていく。
これらの銀河が数百万年から数十億年かけて横切る広大な空間は一段と広がり、その結果、辺縁にある銀河たちを、しだいに大きくなっていく宇宙の虚空へと追いやってしまう。
やがて、最も密度が高い銀河団さえもが、否応なく拡散していき、そこに属していた銀河たちは、引力で中心へと引かれているとはもはや感じなくなる。

不吉な兆候
天の川銀河の内側の、見晴らしのいいところから眺めると、銀河団の消失が、「ビッグリップ」が起こっているという最初の不吉な兆候となるはずだ。
しかし、光速が有限なので、この兆候が見えるころには、影響が自分たちに迫りつつあることはもう感じられているだろう。私たちが属する局部銀河群が含まれる、おとめ座超銀河団が散逸しはじめる。
もともと天の川銀河からゆっくり遠ざかっていたおとめ座銀河団(おとめ座超銀河団の中心にある銀河団)は、後退速度を徐々に上げていく。しかし、この効果はそれほど派手ではない。
ビッグリップが迫るにつれ、銀河の辺縁部にある恒星は、従来の軌道の上を運行するのをやめて、パーティーのお開き近くに1人また1人と帰っていく客のように、漂うように離れていく。