破壊が加速する瞬間
それからまもなく、天空に帯のように横たわる天の川銀河の光は弱まっていき、夜空は暗くなるだろう。銀河が蒸発しているのだ。
この段階からは、破壊のペースが上昇する。惑星の軌道は、もはや本来のものではなくなり、らせんを描きながら徐々に遠ざかっていくのがわかるだろう。
終末の数ヵ月前になると、地球よりも外側を周回する外惑星はもうとっくに、巨大化してさらに広がっていく暗闇の中に失われている。
地球は太陽からふらふらと離れ、月は地球から離れていく。孤立無援となった地球も、暗闇に呑(の)まれていく。
だが、この「孤立」という新しい静けさは長続きしない。この時点で、まだ損なわれていない構造はすべて、それ自体の内部の空間が膨張する圧力で大きな負担を受けている。地球の大気は、最上部から薄れていく。
地球の表面を覆うプレートは、変動する重力に応じてカオス的に移動する。ものの数時間で、地球はもはや、自らを一体に保てなくなる。
地球は爆発する。

生物は原子へと解体し……
地球が破壊されたとしても、理屈の上では生き延びることは可能だ。
兆候を正しく解釈していたなら、あなたはすでに省スペース型カプセルに乗り込んでいるだろう(空間そのものが危険なときは、できるかぎり空間が小さい構造物の中にいたほうがいい)。
しかし、この猶予も長くは続かない。やがて、あなたを構成する原子や分子を一体に保っている電磁力が、すべての物質の内部の空間が膨張の一途をたどるのに耐えきれなくなる。
最後の1秒を切るころには、分子がちぎれ、まだ生き延びていた思考する生物はすべて、内側から個々の原子へと解体していく。
この時点から先は、この破壊を見守る術(すべ)は一切なくなるが、破壊そのものはなおも進んでいく。やがて、原子の中心にある超高密度物質である原子核そのものが崩壊する。
ブラックホールの、ありえないほど高密度な中心部も、いわば骨抜きになってしまう。
そして最後の瞬間、空間の構造そのものが引き裂かれていくのだ――。
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