2022.11.24

【前代未聞】65頭の牛を襲った“怪物ヒグマ”、「OSO18」の3つの謎

65頭の牛を襲い、31頭が死亡
北海道東部の標茶町と厚岸町で、4年にわたって、牛を襲い続けているヒグマがいる。これまでの被害は、65頭。31頭が死亡し、32頭が負傷、残る2頭は行方不明だ。負傷した牛の多くも傷が癒えず、殺処分される。北海道庁は、最初の被害現場である標茶町オソツベツと、現場に残された幅18cmの前足の足跡から、そのヒグマを「OSO18(オソ・ジュウハチ)」と命名。捕獲を試みてきたが、いまだ成功していない。

私たちは、2022年の年明けから、被害を受けた酪農家、対策にあたってきた役場や北海道庁に取材。そして捕獲を託された「OSO18特別対策班」の密着撮影を行ってきた。見えてきたのは、OSO18というヒグマの思いがけない正体。そして、そのヒグマが偶然に生まれたものではない、という事実だった。本稿では前代未聞の被害の全貌と、OSO18に関する多くの謎について紹介したい。(NHKスペシャル「OSO18」ディレクター 山森英輔・有元優喜)

※本稿は11月26日放送「NHKスペシャル OSO(オソ)18 〜ある“怪物ヒグマ”の記録〜」取材班が制作した記事を紹介しています。

 

前代未聞の被害 その全貌

「前例にないです。まるっきり」。そう語るのは、道内随一のヒグマ捕獲のエキスパート集団、NPO法人南知床・ヒグマ情報センターの理事長・藤本靖さんだ。道東一円から集まる凄腕のハンターたちで構成するメンバーで、これまで300頭以上のヒグマを捕獲してきた実績がある。だが、OSO18と名付けられたヒグマは、そのどのケースにも当てはまらない異常さがあると語る。

「何のために襲っているのか、ちょっと理解できないです」

すべての始まりは、2019年7月16日、標茶町オソツベツにある牧場でのことだった。朝4時、牧場主が餌を準備していたところ、牛たちが放牧地の手前側に固まって寄っていた。普段はそんなことはないため、不審に思っていた。

そして夕方、牛が1頭足りないことに気づいた。牧場主の息子が周囲の捜索を始め、放牧地の脇を流れる沢の方へと向かった。沢に降りる斜面で見つけたのは、殺された牛の死体。そばには牛を引きずった跡と血痕が残されていた。足を滑らせて声をあげたところ、20~30m先の藪からヒグマが飛び出し逃げていった。これが、最初で最後の目撃情報となる。

それから被害は瞬く間に拡大する。8月5日に8頭、8月6日に4頭、8月11日に5頭……。わずか2か月のあいだに、28頭の牛が襲われた。複数の現場には、共通する痕跡が残されていた。体毛、そして、幅18cmの大型の前足の跡である。

だが、体毛分析は難航を極める。最初の年の被害現場は9つ。すべての現場で体毛が採取されたが、他の動物のものが入り交じっていて、ヒグマの体毛は4つだけ。うち2つは、状態が悪くDNAを検出できなかった。残る2つ、7月16日の現場と、9月2日の現場の体毛からDNAが検出され、同じ個体だと判明した。

採取できた2つのDNAが一致したことで、同じヒグマが牛を襲っている可能性があるとの見立てはあった。翌2020年、それは確信へ変わっていく。この年に起きた5つの被害現場で採取された体毛のDNAが、すべて、前の年に検出したDNAと同じだったのだ。

こうして、2021年までに被害が起きた25の現場のうち、9か所の体毛は同一のオスグマのものであることが判明。18cmの足跡が多くの現場で見つかったことや、牛を襲う行動自体の特殊性から、すべてが一頭のヒグマの仕業によると北海道庁は断定した。この正体不明のヒグマは、足のサイズと最初の被害現場オソツベツにちなみ、「OSO18」と名付けられた。

被害現場は4年間で31箇所、計65頭にのぼる/NHK提供
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