2022.11.24

牛65頭を襲った“怪物ヒグマ”の「OSO18」、被害現場から「足取り」が見えてきた…!

OSO18の正体に迫る
NHKスペシャル「OSO18」取材班 プロフィール

さらに取材を進めると、「熊の沢」に限らず、多くの被害が、川や沢のそばで発生していることがわかってきた。証言をもとに被害地点を落とし込んで、独自に地図を制作し、川や沢など水路を示す線の全てを青いマーカーでなぞっていくと、関連性が見えてきた。

被害地点の多くは川や沢のそばにあった/NHK提供
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被害地点の多くは、北海道各地にある酪農地帯の中でも、特殊な地形をしている。放牧地の隙間に、川や沢、林、湿地がモザイク状に入り組んでいるのだ。

地平線の奥まで、起伏に富んだモザイク状の景観が続いている/NHK提供
 

木々が生い茂る川をつたって歩けば、誰にも見られることなく、町中の放牧地を行き来することができる。OSO18は、人間に姿を見られないよう、あえて沢を選んで歩いているのではないか。沢を歩きながら、時を見計らって近くの牛を襲っているのではないか。私たちはそのような仮説を持つようになった。

そして今年、その仮説を裏付ける決定的な証拠が見つかることとなった。発見したのは、前編で御紹介したNPO 南知床ヒグマ情報センターの理事長・藤本靖さん。今年、北海道庁から捕獲を託された「OSO18特別対策班」に任命され、事件直後の被害現場に駆けつけ、調査を行ってきた。藤本さんは、ことし2件目の被害となった7月11日の現場と、3件目の被害となった7月18日の現場がすぐ近くだったことに着目していた。

青い線は藤本さんの推測したOSO18の移動ルート/NHK提供
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このふたつの牧場は道路を隔てて隣接している。7月11日から18日の7日間のあいだに、OSO18はこの道路のどこかを横断したはずである。7月18日、事件が発覚した日の午後、藤本さんは、周囲の道路をひたすら車で走った。しかし当初、藤本さんは、足跡や草を倒した跡など、必ずあるはずのOSO18の痕跡を見つけることができなかった。そこで、もう一度、来た道を戻って、眼を凝らした。すると、思わぬ場所に痕跡が残っているのを発見することになった。それは、道路の下にあった。

足跡が残されていたのは、道路の下だった/NHK提供

正確にいえば、道路が小川を跨ぐ橋の下。そこに足跡が残り、周辺の草が森の奥までバタバタと倒れていたのだ。キツネやエゾシカが通るときにできるものとはまるで違い、倒れている幅は異様に太い。これは間違いなくヒグマが歩いた痕跡である。通った形跡は一頭だけ。だとすれば、OSO18に違いないと、藤本さんは確信した。

そう、道路を“渡っていた”のではなく、“くぐっていた”のである。現場間を川や沢に沿って移動し、道路に行き当たると、その橋の下をくぐった。たとえ車通りが多い国道であったとしても、橋の下を歩いていたら目撃されづらい。人間に目撃されやすい箇所を把握し、意図的に回避する行動を取っていた。

「人が普段見ないようなところをきちんと通っている。人間の裏をかくことに長けているヒグマだとわかりました。何かのきっかけでOSO18は人間を徹底的に警戒するようになってしまった。その部分については人為的なのかもしれないです」

ことしから「OSO18特別対策班」を率いる藤本靖さん/NHK提供

何らかのきっかけで手に入れた高度な警戒心。沢をつたって歩き、橋の下をくぐる、という習性が、「忍者グマ」の実態だったのだ。

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