山の半分が人工的な「造林」の理由
その手つかずの森と共に、神宮の山の半分は人工的に造林を進めている森林が存在する。神宮では20年に一度社殿を新たに造営し、神様にお遷りいただく式年遷宮というお祭りが1300年にわたり行われているが、その森林では、その御用材を育てている。なんと今から100年前の1923年に立てられた計画というのが驚きだ、そこでは、整備や(かんばつ・間引くこと)、枝打ちなどの森の世話を、神宮営林部の職員が長い間、続けている。
2013年の式年遷宮では、200年後の御用材(ごようざい)確保の計画のもと、約700年ぶりに宮域林のヒノキの間伐材(かんばつざい)の一部が御用材として使われた。人が世話をする森に林立するヒノキの大樹候補の幹には、二本線がペンキで塗られていた。神宮では、受光伐(じゅこうばつ)という手入れの方法がなされる。間伐の際には枝先が触れあう隣の木を優先的に伐(き)ることにより、森林を切り透かし、日光や栄養を木に十分与えて、通常より、1.5倍程度、成長が促進されるのだという。その二本線のペンキは、200年というプロジェクトの何代かにわたる世話をする人々の命のバトンだったのだ。

このように神宮の宮域林は、手つかずの森としての価値だけでなく、人と自然が共生する、広葉樹と針葉樹の山造りのモデルケースとしても世界から注目されている。
その人間と自然が共に生きてゆく森は、光に溢れた美しい循環の森であった。

稲田美織さん連載1回「世界の聖地を撮り続けた写真家が伊勢神宮で出会った「日本の本物のSDGs」」はこちら