――かなり具体的なところまで詰めいくんですね。

浅田 次に、今言ったことをすべて俳優部にお伝えします。例えば「声をあげる」というのはどんな声なのか、といった監督から聞いているニュアンスを俳優に伝えて、できることとできないことの確認をするわけです。そしてNGがあった場合はそれを監督やプロデューサーに戻して、「これは難しいそうですがどうされますか?」とか、「この方はこのぐらいだったら大丈夫です」というやりとりを重ねていきます。

また3話には、「布団の上で裸の恵那がまどろんでいる」というト書きが台本にあったので、「裸でまどろんでいるとはどういう状況ですか?」ということも尋ねました。監督からは「設定上は全裸だけど、実際はブランケットが掛かっていて、ひざ下が見えるくらい」とお伺いしたので、それを長澤さん側に持っていくわけです。

佐野 そのとき、浅田さんが監督にブランケットの厚さまで確認されていたのが、プロの仕事だなと思いました

浅田 布団の下は全裸のはずなのに、布団の厚さによっては、下着やレギンスなどの身につけているもののラインが出てしまったりするので。

また、このときは撮影が夏の終わりだったので大丈夫でしたが、冬の寒い時期だとスウェットを着たり、湯たんぽを用意したりしなければいけないので、撮影当日に誰がその準備をするのか、ということも私が取りまとめます。

 

――これまでは、そういう仕事は誰が担当していたんですか?

佐野 衣裳部やスタイリストが、「私が前回やったときはこうでした」とチューブトップやヌーブラを用意してくださったり、防寒具は制作部とか、ほとんど現場の慣例やスタッフの経験則で、できる限りの配慮をされていたと思います。

浅田 ベッドシーンで俳優の胸元を隠すにしても、それが衣装部の仕事なのか、近くにいるメイク部がやるのか、演出部なのか、というのがこれまで曖昧だったんですよね。インティマシー・コーディネーターがいれば、そういうのはひとまず全部私がやりますと言えるので、皆さんは本来の衣装やメイクの仕事に集中できるわけです。

また俳優にとっても、自分の体やブランケットに触れる人が決まっていないのは心理的に負担やストレスになりますから。それが一人に集約されることも、インティマシー・コーディネーターがいるメリットなんです。

――なるほど。スタッフの負担を減らすメリットもあるんですね。

浅田 はい、スタッフの皆さんが自分の仕事に集中できる環境を作ることも、私の仕事の一つです。それと、現場の慣例や経験則で対応してしまうことのリスクは、「昔脱いでたんだから今回も脱げるでしょ」という空気になりかねないことです。年齢を重ねたり、人によっては結婚・出産といったライフステージを通過したり、さまざまな経験を積むうちに、考えや感覚、できる範囲は変わっていきます。“このストーリーのこのシーンでこの役が何をするべきか”という最終的な決断は、あくまでその都度その方自身に決めていただくようにしているんです。