――「慣習に従えばOKだろう」ではなく、「初めてのことだから怖い」と感じてプロに頼もうと思える佐野さんの感覚が素晴らしいと思います。

佐野 前編で浅田さんがインティマシー・コーディネーターを、アクション・コーディネーターにたとえていましたが、本当にその通りで。弁護士ドラマをやるときは弁護士に法律監修をお願いするし、医療ドラマをやるときは医療職に医療監修をお願いしますよね。自分たちがわからないことは専門の方に相談するのが当たり前なのに、インティマシー・シーンに関しては「役者なんだからできるよね」とないがしろにされていたことが、よく考えたらおかしいなと思ったんです。

それが役者の仕事だと言ってしまえばそれまでですが、他人同士がいきなりキスしたり、セックスしているように見せたりするのって、すごいことですよ。本来はものすごくプライベートなはずのことを当たり前のようにやってもらっている。それって本当は怖いことだと思わないといけないなって。

 

“気遣い”ではなく“基準”で守ることの大切さ

――実際問題、インティマシー・コーディネーターがいないと現場ではどのような問題が起きるのでしょうか。

浅田智穂(以下、浅田) 前編でも説明したように、台本のト書きって書いていない曖昧な部分も多いんですね。「私はここまでだと思っていた」「いや、こっちはここまでしてくれるつもりでキャスティングしたんだけど」というふうに、俳優と監督・プロデューサーの間で認識がすれ違っていることが結構あるんです。

佐野 ト書きには「2人が抱き合っている」としか書いていなくて、俳優はハグ程度だと思っていたのに、監督はセックスしているように見えるレベルを求めていた、とかですね。

キスは軽いキスか濃厚なキスか、ベッドシーンなら裸なのか毛布はかけられているのか、照明は真っ暗なのか月明かりくらいの明るさなのか、それによって俳優の抵抗感も心構えもまったく違うはず。人によって解釈が違うのは当たり前なので、そこを事前に細かくすり合わせておく必要があるんですよね。

浅田 「今日はどこまで脱がされるんだろう」「どこまでやらなきゃいけないんだろう」と不安を抱えながら現場に来るのと、それが事前にクリアになった上で撮影に臨めるのとでは、安心感がまったく違いますし、結果的にお芝居のクオリティにも影響が出ると思います。

何よりもまず俳優に安心してお芝居に集中していただくために、インティマシー・コーディネーターは必要なんです。