佐野 それから、監督が大御所だったり、俳優が駆け出しの若手の方だったりするほど、現場で違うことを要求されたときにNOと言い出しづらいという問題もあります。
浅田 これから売れていきたい若手の俳優は、チャンスを逃したくないからどうしても断りにくいでしょうし、「ここまで脱げます」「ここまでできます」と根性を見せることがいい俳優だ、という風潮もそれを助長していると思います。そういう現場の空気から俳優を守ることも私の役目です。
――現場で気がついた人が“気遣い”でケアするのではなく、専門家がきちんと“基準”を示すことが大事なんですね。「この作品はインティマシー・コーディネーターが入っている」ということ自体が、俳優さんにとっての安心材料になりそうです。
浅田 おっしゃる通りで、私が入ることによって、“何が撮影におけるスタンダードなのか”という共通認識を全員で共有できるのがメリットのひとつ。そして、「インティマシー・シーンについては私にすべてまかせてください」と言える人間がいると、他部署のスタッフの負担が減るというのもメリットのひとつだと思います。
――インティマシー・コーディネーターを導入するのは、スタッフや作品のためでもあるわけですね。
浅田 もちろんそのぶん人件費はかかりますが、私はそれに見合うよう、当日の撮影がスムーズに進行できるように準備します。やはり現場で「聞いてなかった」「それはできない」ということになって、その日の撮影が飛んだケースもたくさん聞きますから。
佐野 そうなんです。撮影が一日キャンセルになっただけで、あっという間に100万200万飛んでいく世界なので、そういう意味でもインティマシー・コーディネーターの役割はとても大きいと思います。
すべてのシーンで事前にディスカッションしたい
――実際にインティマシー・コーディネーターを導入してみて、佐野さんがよかったなと思ったのはどんなところですか?
佐野 本当によかったことしかないです。繰り返しになりますが、まず何よりも事前に打ち合わせをして制作側と俳優の合意が取れることで、みんなが安心して撮影当日に臨めることは一番のメリットでした。
実際、俳優たちからも「これで安心して芝居に集中できる」とおっしゃっていただけました。
――他に、プロデューサーとして感じたメリットはありますか。
佐野 そうですね。それでいうと、撮影現場は基本的に監督のものなので、プロデューサーはなかなか演出に口出しがしにくいんですよね。特に私は、自分よりベテランの監督とご一緒することが多いので余計に。だから、事前にプロデューサーとしての思いを伝えられる場があるのはありがたかったです。
「このシーンのこのセリフはこういう意味だからこう撮りたいよね」ということをみんなで話し合えるのってすごく大事だなと思いました。