時間にもお金にも余裕がないドラマ制作の苦境

――佐野さんは、今後もインティマシー・コーディネーターの導入を続けていく上で、課題や難しさを感じたところはありますか? 例えば、地上波の連ドラは制作スケジュールが非常にタイトだと聞きますが、事前に十分な話し合いをする時間は取れるのでしょうか。

佐野 まさにそこが問題で、『エルピス』は企画の成立過程が特殊だったこともあり、撮影開始前に脚本が全部揃っていたからできたというのは、正直あります。インティマシー・シーンのような俳優や現場の負担が大きいシーンは、十分なプリプロ(プリプロダクションの略で、撮影前の準備作業の総称)の時間を取るのが大事だと実感したので、これからはもう事前に脚本を完成させておくのはマストにしたいなと思いました。

 

――先ほどもおっしゃっていましたが、現場に時間もお金もない、という問題も大きそうですね。

佐野 結局マーケットを広げていかないと、今のルーティンのままでは制作費が増えないんです。だから、何とか頑張ってクオリティの高いものを作って、それが海外で売れれば、そこで儲かったお金を次の制作費に回せるかもしれない。そういう努力をしていくしかないんですよね。

でも、そのために俳優やスタッフの時間を拘束するには、それなりのギャラを払わないといけない。面白い企画を立てれば、「これならお金がなくても参加したいです」と言ってくれる人は増えるんですけど、それではやりがいの搾取になってしまうので。もう悪循環なんです。

――10月にフランス・カンヌで開催された世界最大級の国際映像コンテンツ見本市「MIPCOM」で、『エルピス』がAsian World Premiere TV Screeningとして世界初上映されました。これも、海外に通用するコンテンツを、という取り組みの一環だったんですね。

佐野 海外メディアの取材を受けたときに予算の話になって、「うちはゼロが2つ違いますよ」みたいなことを言ったら、「どうやって作ってるんだ!?」とすごく驚かれました。結局、みんなの犠牲のもとに作っている部分は否めないんですよね。