2022.11.30
# 大相撲

大相撲九州場所、“優勝決定巴戦”で起きた「脳震盪」問題を軽く考えるべきではない理由

西尾 克洋 プロフィール

阿炎の勝利に救われた2人

立ち合いで、まっすぐ立った高安に対し、阿炎は横に動いた。変化を予期できなかった高安は頭からぶつかりに行ったため、横に動いた阿炎に不自然な形で当たってしまい、そのまま崩れ落ちてしまったのだ。

落ちた後の高安は身動きが取れなかった。起き上がるまでにかなりの時間を要したが、よろめきながら手を借りて土俵を降りたところからも「脳震盪」を起こしていることがわかった。

巴戦は3力士で行われるため、1人の力士が連勝を決めるまで取組は続けられる。つまり、阿炎が仮に貴景勝に敗れていた場合、高安は次に貴景勝と対戦することになる訳だ。

当然、ここで一つの疑問が生じる。脳震盪が疑われる高安に、続けて相撲を取らせることに問題はなかったのだろうか?

貴景勝は頭からのぶちかましから強烈な突き押しで攻め立てる力士である。脳にダメージが残っているかもしれない高安が続けて貴景勝と相撲を取ることは、かなりの危険を伴うのではないか。

貴景勝は四つの相撲を取れるタイプの力士ではない。だからこそ四つを得意とする力士は貴景勝を捕まえに行くケースが多いのだが、優勝が懸かった大一番で、仮に貴景勝が高安の脳震盪を考慮して取れる相撲となると、立ち合いの変化ぐらいしか選択肢はない。

これは貴景勝にはかなり罪作りな一番になってしまったことだろう。

 

ダメージの残る高安に対して自分らしい相撲を取ることで、高安の脳にさらなるダメージを与えてしまうか。それとも、変化という大一番に相応しくない相撲を、大関という重責を担う立場で取りに行くのか。

そう考えると、阿炎が勝利したことによって、残る2人が救われたと言ってもいいのかもしれない。高安が追加のダメージを受けることも、貴景勝が難しい判断を迫られることも無かったのだから。

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