2022.11.30
# 大相撲

大相撲九州場所、“優勝決定巴戦”で起きた「脳震盪」問題を軽く考えるべきではない理由

西尾 克洋 プロフィール

常駐するドクターの存在意義は?

果たしてそのまま高安に相撲を取らせて問題はなかったのか、正確なところは分からない。ただ、仮に高安が阿炎との一番で「脳震盪」を起こしていたとしたら、より大きな問題につながったかもしれない、という可能性は否めない。

大相撲は現在幕内の平均体重が160キロ前後で推移しており、更にはコンタクトスポーツであることから、常に怪我のリスクを抱えている。今回の九州場所では、15日間を通して、怪我による休場は発生しなかったが、それが驚きと喜びで迎えられるほど取組中の怪我が頻発しているのである。

現在の大相撲の医療体制については、「相撲診療所」にドクターが常駐しており、何かがあればすぐに診断できる体制ではあるという。しかし、そうであればこそ疑問に思うのは、なぜ高安があのような状況だったにもかかわらずドクターが駆けつけなかったのか。なぜその場で、その後の取組続行の可否を診断しなかったのか、という点である。

実際、阿炎と貴景勝との取組の最中に高安のメディカルチェックが行われているようには見えなかった。ということは、高安が脳震盪を起こしている可能性がある中で、誰も彼の状態をチェックすることなく、貴景勝との取組が行われていたかもしれないのだ。

常駐するドクターの存在意義は何なのだろうか? 危険な状況にあるかもしれない力士をそのままにする現在の体制の体制は、このままで良いのだろうか?

 

脳震盪というのはセカンドインパクトが非常に怖いものだのだという。最初の脳震盪から完全に回復する前に2回目の脳震盪を起こした場合、脳が急速に膨張する。そしてこの症候群になった運動選手のほぼ半数が死亡しているというデータもある。

大相撲では最近、脳震盪問題について着手しており、仮に脳震盪など体調に異変が起きた場合は取り直しの一番に出場させないというルールを設けている。実際、2021年の名古屋場所2日目に人気力士である炎鵬が、貴源治との一番で物言いがついた際、足がふらつくなどしていたことを考慮し、審判団が脳震盪で相撲が取れないと判断し、不戦敗となっている。

着手するのが遅いという指摘もあるとは思うが、前には向かっている。

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